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マイ・ブロークン・マリコのcalinkolincaのレビュー・感想・評価

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
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「死んだ人を蘇らせるにはあなたが生きて思い出してあげるしかないんじゃないですか。」

主人公シイノは親友だったマリコの遺骨を持って逃げる。表向きは最低なマリコの父親からマリコを引き離すため。マリコが行きたがっていた海に彼女を連れて行くため。
でも本当は、彼女は逃げようとしていたんだと思う。薄れていく記憶から、マリコのいいとこしか思い出せなくなる自分から、これから来るだろう、マリコがいない未来から。冒頭のセリフを聞いてそう感じた。

私もずっと思い悩んでいたからわかる。良いことがあった日、素敵なひとに出会った日、忘れられない出来事があった日、絶対に忘れないと誓ったはずのそれらはなぜ時が立つごとに自分の中から消えていってしまうのだろう。どうして、忘れたくないことを脳の一番手前のフォルダに入れて、いつでも取り出せるようにできないのかと。嬉しいことのあとに必ずそれらが自分から剥がれていく感覚が悲しかった。
けれど、反対のことも思う。悲しいことがあった日、それらがいつまでも自分から剥がれてくれなかったら私は生きていけただろうかと。人間から悲しいことを忘れる機能がなくなったら、自死を選ぶ人が増えてしまうんではないかと思う。

だから、悲しいけれど忘れていくことはごく自然なことで、日常に戻ったシイノの中のマリコの記憶は少しずつ薄れていくのかもしれない。
けれど、彼女にとってマリコと旅した数日間は非日常で、特別で、きっと生涯忘れ得ないものになったと思う。この日を思い出すたびそこにはマリコがいて、マリコを思い出すためにシイノは、遺されたものは生き続けなければならないのだ。そのために、必要な旅であり、逃避行だった。

原作のファンなのですが、マリコ役の奈緒さんとマキオ役の窪田正孝さんが素晴らしかったです。永野芽郁さんは、私の思い描いたシイノとは違ったかな。でもまぁお二人が素晴らしかったのと、タナダユキ監督の原作への愛を感じる素敵な作品になっていたので、それだけで、もう満足。
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