じゅ

マイ・ブロークン・マリコのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

『生きのばし』と聞いて。
あれが俺の初めてのTheピーズだった。結成30周年を記念してthe pillowsの山中さわおさんがピーズファンクラブってのをYouTubeでやってて、たしか髭の須藤さんと斉藤さんとやってた。(須藤さんが大先輩のハルくんから煙草もらいまくるからさわおさんがブチギレたエピソードはおもろかった。)そっからピーズをかいつまんでる。あとアビさんがBTSの『Butter』が良いって言ってるのを見て聴いてみたりとかしてる。
ハルくん食道癌と聞いたときはびびったなあ。無事でよかった。なんやかんやもう35周年か。

本編のしっとりしたかんじの締め方の後にあのザリザリしたかんじの曲が始まったときは少々びびったけど、なんかしっくりきた気はする。
鼻をつくクソどもと鼻につく綺麗なものたちの狭間で惰性だろうが抜け殻だろうが生きてんだそれでいいだろ、みたいな曲だと思ってる。投げやりで図太くて力強い。投げやりってつまり、前向きにはなれずとも受け入れるかんじというか。シイちゃんもそんなかんじかなーって感じた。


シイノトモヨのダチのイカガワマリコが死んだ。昼のニュースで聞いた。飛び降り自殺だった。チャット並の早さを誇ったマリコの既読は、その日から一切付かなくなった。マリコは幼少期から父親に虐待されてて、それなりに身体が育てば犯されたりもして、父親から離れても尚ことごとくクソ野郎どもの餌食だった。そんなマリコは小学生の頃から勝ち気なシイちゃんにべったりで、シイちゃんも何度もめんどくせえと思いながらマリコが唯一の親友と思っていた。
亡骸は直葬された。死に目にも会えずマリコは骨になった。シイちゃんは「今度こそおまえを連れ出してやる」とマリコの家に行き、親友のクソ親父を突き飛ばしてマリコの遺骨を強奪する。
連れ出すとはいえ、どこへ行けばいいかわからない。ふと、「行きたいね」とまりがおか岬のポスターを指差すマリコの笑顔を思い出す。シイちゃんは夜行バスに乗る。
ひったくりに遭い、名乗るほどのものではない青年・ナリタ商店のマキオに手を差し伸べられ、綺麗な思い出だけ遺して消えていくマリコに急りながら、ついに目的の地へ。
マリコの遺骨を置いて飛び降りようとしたところをマキオに止められる。そこで偶然にも先のひったくりが少女を襲っている現場に居合わせ、シイちゃんが助けた拍子にマリコの遺骨が海に散る。思わず手を伸ばしたシイちゃんは崖の下へ落ちるも、脚の怪我で済む。
帰宅したシイちゃんのもとへ、後日マリコの父親の再婚相手から手紙が届く。同封されていた物はマリコが最期にシイちゃんに宛てた手紙。


シイちゃんとマキオさんとの間で「大丈夫ですか?」「大丈夫そうに見える?」「大丈夫そうに見えます。」みたいなやりとりが2回あったか。2回あったってことは大事なところなんだろうな。
1回目はひったくられたシイちゃんとその現場を偶然通りがかったマキオさんとの初対面のところ。あの場面で「大丈夫そう」と言ったのはたぶん体のことで、見たかんじ怪我はないから大丈夫っていう話だったのかな。
2回目は少女を襲ってた野郎と一緒にまりがおか岬の崖から落ちた後。あれは、まあ怪我云々のこともあろうけど主には心のことで、大切だった人が先立ってしまったことに折り合いをつけることができたみたいだから大丈夫っていう話だったんだろうと思う。


マリコが何故死んだかとか、最後の手紙の内容が何だったかとか、マリコの最期はことごとく描写されなかったんだよな。でもシイちゃんがマリコの手紙を読んだってのは描写されてたから、マリコの最期が具体的にどんなだったかはどうでもよくて、マリコの最期の気持ちがシイちゃんに届いたってのがたぶん重要なのか。

それまでのシイちゃん視点だと、おばあちゃんになっても一緒にいたいとか言ってたダチが、私より大切な人ができたら死ぬからとか抜かしてたダチが、勝手に先に死んだわけか。今更あんたは悪くないとかどれだけ言っても届かないし、マリコが何を思っていたか、本当に知りたいことは死んでちゃ何もわかんねえ。キラキラしてて掴めなくてなんやかんやで重力に逆らえなかった彼女の遺骨はシイちゃんが意図しない形で舞い散っていった。シイちゃん自身の無力と外界からの不可抗力の中でマリコはいつの間にか消えた。その後も、マリコが消えたとて世間は何も変わらない。
なんと淋しくて腹立たしいことだろう。マリコが大切で大切で仕方なくてでも救えなかったシイちゃんの中にマリコが残っても、マリコに己の弱さを押し付けて徹底的にぶっ壊したこの世界はマリコを忘れ去ってさも初めからいなかったみたいなツラしやがる。
自分の中の大切な人と自分を大切にとマキオさんは言う。でも日常に戻ってみると、悔いだらけの別れをせめて多少は前向きに呑み込むための諦観に思えてならない。お別れが後悔まみれなら、せめてその前の思い出で以って後悔を塗り替えよう、と。

でも、マリコはちゃんとシイちゃんに手紙を遺してたんだな。少なくとも、自分が何も知らぬ間にあっけなく死んだと思った淋しさは薄れたのかな。
何回もめんどくせえと思ったあの子が多少なりとも蘇ってくれてたらいい。


シイちゃんの子供に産まれたかったかー。極まってんなあ。
マリコの母親は生まれるところ(時代だっけ?)を間違えたって思うことができたし、クソ親父から逃げる選択ができたけど、マリコはできなかったな。シイちゃんが母親だったら逃げるにしてもマリコの手を引いてってくれただろうか。親友としてのシイちゃんと同じように、あんたは悪くないと抱きしめてただろうか。やってたかもなあ。
まあ、たぶん料理はがんばんなきゃだけど。
じゅ

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