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マイ・ブロークン・マリコのtsukikoのネタバレレビュー・内容・結末

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

映像が綺麗で永野芽郁がいい演技をしていて、奈緒もメンヘラを上手に演じていて良かったなあと思ったので、より陰鬱な雰囲気漂うと評判の原作を読もうとAmazonにアクセスしたら、どうやら2年前に買っていたようだった。

KindleとかDMMでは買って“バーチャル積ん読”することがかなり多いので、そうか今回もこれは読んでないなと思ったら、しっかりラストページが表示されて読んでたらしいことが分かった。
全然覚えていなかったのでもう一度読んでみたけど、やっぱりほぼ記憶にない。そして読み進める中で、どうして記憶に残っていないのかが理解できた。

書籍の中でも現実世界でもハードなメンヘラをよく見ていたことから、この物語の計算しつくされた物語展開と人物像に物足りなさを感じたのだと思う。

でも、ハードな人たちは物語にできないレベルの地獄を生きているため、「マイ・ブロークン~」くらいの描写が多くの人の心を掴む漫画としてはギリギリのラインなんだろう。地獄を描きたかったわけでもないだろうし。

だから、切なくて胸がギュッと掴まれてカタルシスもあるこの物語は、すごくよくできているし多くの人を感動させたし、映画も完成度が高くて評価されたのだろうと思う。

さて、「マイ・ブロークン~」では親ガチャに失敗した上に父親からは奴隷のように扱われ、性的虐待まで受けているマリコは、そんな過去から人との距離のとり方がわからず自己肯定感も低い人間に育ち、親友である主人公のシイノに依存気味で、彼氏ができるとどんなに駄目人間でもどっぷりハマってDVを受けて別れることを繰り返している。まさに絵に描いたようなメンヘラで、最期はベランダから飛び降りて自殺。それを知ったシイノはマリコの遺骨を実家から強奪すると、生前の彼女が行きたいと言っていた岬を目指すという感傷的な青春ムービーだ。

シイノは永野芽郁、マリコは奈緒が演じている。2人の緊張感ある演技はとてもよく、途中で登場する窪田正孝もいい味を出している。

物語はテンポがよく飽きさせなかったが、岬でのシーンはちょっと強引かなと感じた。ただ、遺骨が舞うシーンでのシイノの独白は素晴らしいと思う。生前の故人を思い浮かべて懐かしむシーンでは指折りではないか。
 
映画を見終わって思ったのは、メンヘラって25ないし30超えたらどこに行くんだろうということだった。
これはもうずっと思っていて、私が見てきたメンヘラたちは自殺したり結婚して子供を生んで虐待したり失踪したりして、ほとんどがマジョリティとは人生を歩んでいる。一方で、憑き物が落ちたように普通の人生を歩む人もたぶんたくさんいるとは思う。

もしマリコが生きていたら、と思う。まともな男と結婚してDVされない日々を過ごして子供を生んだとして。それでも、彼女は破滅的な道をわざわざ選んで突き進んでいくだろうか。それとも、若気の至りだったと昔を懐かしんで笑みをこぼすだろうか。

後者だったらいいなと思いながらも、多分前者だろうことは本人が一番よくわかっていたからあの結末を選んだのだろうと思ううけど、それは悲しい選択だったのだろか。哲学者のエミール・シオランは、自殺こそは人に残された唯一の自由みたいなことを言ってるけど、まさにそのとおりだと思う。未来が明るくないことを容易に想像できるのなら自死もまた前向きな選択ではないか。果たして、そう思うことは悪なのか。

私はそうは思えない。死ぬな、とがんじがらめに生きさせられるこの世こそ地獄であり、マリコを虐待した父親のような人間を量産する原因であると思っている。

マリコの魂は、死によってやっと解放されたのだと信じたい(当然ですが自殺を推奨しているわけではないので、あしからず)。
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