このレビューはネタバレを含みます
求めあって結婚したわけではないし、もっと理想的な人生って切りがないほどあって…でも自分の社会へ対しての適応力とか、処世術とか、ガッツリ食らいついていくようなエネルギーとか、そういうものが人より少ないなというのは自覚していて。それ故、流されて。
そんな消極的に活きてきた中でも出会った男と女。お互いに自分の心持ちがわかり、思いやれる。いい人に出会えて幸せ。社会の底辺で辛いこともいっぱいあるんだろうけど、孤独に生きるよりもふたりで生きていく方が何千何万倍も人生の幸福感が上がる。
作物を育てたり、家を建てたり、ヒヨコからしっかりニワトリを育てて卵を手に入れたり、血を抜かれたり、まさに必死に生きる姿。過酷な労働で長生きはできないだろうなぁと、申し訳ないが憐れで同情してしまうが、この境遇でささやかながら幸せな夫婦生活が送れたのが救い。
唯一、違和感感じたのは、藁を積むとき、嫁さんに「そんなんもできんのか、小麦はたらふく食うくせに。ロバだってちゃんと働くぞ」みたいに言って激昂してたけど、心の寬い彼が、そんな怒ることかと不自然に感じてしまった。
よく考えると、彼らのサバイバル技術はかなり高いので、世が世なら、場所が場所なら、めっさ出世してたのではなかろうか。
こんな過酷で困窮した生活なので、作品の最後としては、どちらかの病気など悲しい結末を予想してはいたが、あっけなさ過ぎる川へ転落という締め。ゆっくり着実に築いてきた夫婦という助け合い幸せを追求する関係、一瞬の不注意で消滅してしまう。
ふたりで時間をかけて建てた土の家も重機一台で一瞬で消滅。
はかない。しっかり機能しているものでも、何かちょっとした刺激で崩れてしまう。
静かで控えめだけど、刺激に慣れすぎた都会生活では見えてこない本質的な重たい何かを教えてくれる。