よしまる

小説家の映画のよしまるのレビュー・感想・評価

小説家の映画(2022年製作の映画)
3.6
 まだホン・サンスを観るのは2作目。だからこれが彼の王道なのかそれとも異端なのか知る由もない。
けれども延々と会話が続く長回し、意味のわからないロングズーム、女性に対する独特の目線といった特徴的な記号が既に「これがホンサンス節でござんす」と訴えてきているようで、なるほどここで好き嫌い分かれるよなーと思わされる。

道行く人が顔を見てわかるほどに有名な小説家、でも今はスランプなのか、ちょっと過去の人扱いされている女性が主人公。
キャリアを積んだ反動なのか独身で、昔馴染みの友人を尋ねるもイマイチ居心地のよい感じでもなくという微妙なスタンスから話が始まる。

開始から10分くらいの長回しだろうか、この落としどころの見えない浮遊感がめちゃくちゃ面白くて引き込まれる。おそらくダメな人はもうここでつまんなくて耐えられないのだろう。

そんなフワフワとした小説家の旅の途中、かつて原作者と映画監督という関係のみならず不倫関係にあったと思しき男と偶然の再会を果たす。

このニュアンスも絶妙だ。会話以外に物語にヒントを与えてくれることはなく、かといってなんでもセリフで説明してしまう最近の邦画とも違う、例えるなら昭和の日本のテレビドラマのような奥ゆかしさがある。これがたぶんボクのツボを刺激するのだろう。

さらに公私においてパートナーとされるキムミニ演ずる元女優が登場。
隠居生活を送る元女優のことを勿体ないと責める監督に激昂する小説家。このあたりの人間関係の揺らぎ、立ち位置の入れ替わりなど、演技とは思えないくらいよく出来ている。
ただ、それをきっかけに今度は小説家が女優を映画に撮りたいなどと言い出すのは結局のところ、小説家を利用して監督がキムミニの映画を撮りたかっただけなのでは?
と、思っててはダメなのだろうか。

劇中でキムミニが、とある映画を見たあとのなんともいたたまれない表情が面白い。
映画の中の彼女はこんなにも幸せな笑顔だというのに。

カメラに向かった笑顔というのは、たいてい向けられている具体的な対象が浮かび上がるものである。
キムミニの瞳の中に映るのは小説家なのか、それともホンサンスなのか。
いずれにしてもホンサンスに向かって微笑んでいるのは劇中映画の中のキムミニであり、それを観て不機嫌な顔をしているキムミニもまた、ホンサンスに撮られている。かくも多様に女優の顔を引き出せるのは、不倫関係にあれば当たり前なのかもしれないけれど、そういう中の人たちの事情はこの際置いといて、、気にすることなく、、触れもせず、、

いや、無理だな笑