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小説家の映画のMCATMのレビュー・感想・評価

小説家の映画(2022年製作の映画)
4.5
なるほど、これは非常に良く出来た映画だ、ホン・サンスにしか撮れない類の。つまり、こんなに勇敢な人はいないだろうと思う。半分引退したような状態の小説家が、こちらもほぼ引退状態の女優と偶然出会い、意気投合して短編映画を撮りたいと提案する。こうやって目の前で創造力が爆発する瞬間を逃すバカはいないので、そのささやかなアイディアを藁のようにしてすがる二人が、街を彷徨する。

いささか唐突に、関係者試写のシーンになだれ込むと、ここでもやはり、物語の種のようなものは徹底的に踏みにじられ、いや正確に言うと、箱に入れて丁重にしまわれているのだ、この「種」は。そして、その箱からこぼれ落ちてくるような創造の残り滓のようなものから、創造の本質が各々の中で像を結ぶはずであろう。

とか、真面目に考えてた俺を混乱させる最後のシークエンス。良い意味でも悪い意味でも、何のつもりで挿入したのか全く理解できず、千鳥とかの言う「今日で芸人辞めるんか?」の問いを、ホン・サンスに投げかける。「今日で映画監督辞めるんか?」まるで映画を撮るのを諦めたやらかしのようなシークエンス。ラストカットで、かの当事者キム・ミニ演じる女優が試写室から現れると、その表情もどこかムスッと、心ここにあらずという雰囲気を漂わせていて、その困惑を受け止めているはずの小説家も、撮影を担当した甥も、何故かそこにはいないのである。
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