Jun潤

苦い涙のJun潤のレビュー・感想・評価

苦い涙(2022年製作の映画)
3.9
2023.06.18

予告を見て気になった作品。
映画作りモノ、それもシンプルなものではなくエゴや愛情を絡めた人間ドラマの予感。
1972年に戯曲を原作として映画化された作品のリメイク。

1972年、西ドイツのケルン。
映画監督のピーター・フォン・カントは、恋人との別離から荒んでいた。
ある日、かつて共に映画を作った女優、シドニーが訪ねてくる。
シドニーは、オーストラリアから向かってくる船で出会ったアミールという青年をピーターに紹介する。
美しい容姿のアミールに一目惚れしたピーターは、アミールに演技の才能を見出し、アミールの世話をすると共に恋人としての関係を重ねていく。
9ヶ月後、ピーターと共に映画を制作していても、生活はすっかりピーターの世話になり、彼からの愛情表現もあしらうようになってしまったアミール。
アミールの言動から嫉妬に狂ったピーターの行く末を追っていく、奇劇であり、喜劇。

いや面白い!面白いんですけど、破滅していく男の様子を描いた作品としてはシリアスさが足りなかったというか、本当に良い意味で面白すぎて、似た作品に感じてきたような悲壮感や苦々しい感じが無く、新鮮な気持ちで観れたものの、ブッ刺さったかと言われると、そこまでではないと感じてしまったのが、個人的に傑作からちょい減点ポイントでした。

あとは映画作りモノと思っていましたがその要素はキャラクターの背景までで抑えられており、今作の特徴はワンシチュエーション・コメディであることだったかと思います。
ピーターとアミール、彼らの部屋に訪れるシドニーやピーターの母や娘との会話劇もさることながら、助手のカールの存在感が抜群に良かったですね。
口数も動きも圧倒的に少ないのですが、その表情や立ち居振る舞いがとてもよく、彼の本心は終盤で匂わされる程度なのですが、側から見ていても地獄のようなあの部屋にずっといて、部屋の中で起きる出来事をずっと見つめていたカールのことを思うと、それだけで今作を鑑賞した価値がありましたね。

ピーターのキャラクターや会話のやり取りが本当に面白い作品でしたが、彼の持つエゴい愛情には作品としての苦味だけでなく、自分の周囲の人たちや、自分自身にも当てはまるのではないかと、恐々とさせられる部分もありました。
自分が相手に与えた愛情や施しへの対価、自分が相手を想っている時には常にそばにいて欲しい、肌を合わせていたいと、そして愛情を失った自分への同情などを相手の感情について考えずに、それらを求め過ぎていたピーターのことを、憎めないメンヘラおじさんだな〜では済ませられない変な寒気が、今作を観た後にも残りましたね。
Jun潤

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