コマミー

苦い涙のコマミーのレビュー・感想・評価

苦い涙(2022年製作の映画)
3.8
【孤独ゆえに依存し、そして壊れやすい】


※さて、下半期スタートです


私は"ファスビンダー"の作品は手に入りづらすぎて観れてないが、この"フランソワ・オゾン"が手掛けた"リメイク版"を鑑賞して分かった…まぁ本作だけを観ただけの感想なのだがどこか今で言うペドロ・アルモドバルのような作風だなと感じた。
ちなみにファスビンダーも"同性愛"についてよく描いており、それによる"欲情"や"孤独による感性の崩壊"もよく描いていたと言う。そしてどこか舞台劇風な作りも、アルモドバルの作品に近いなと感じた。

要するに2人は極めて共通点が高いと感じたし、もしファスビンダーの作品を鑑賞する機会が訪れたら、観てみたいなと感じた。

本作は「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」というファスビンダー自ら手掛けた"戯曲"を自ら映画化した作品のリメイク版である。ファスビンダーが手掛けたものでは女性同士の愛を描いているが、こちらのオゾンが手掛けたリメイク版では"男性同士"の愛を描いている。
私はこの性別の変更によって、この戯曲が"ファスビンダー自身の物語"だという事を示唆出来てると感じたのだ。そしてそれと同時に、"ピーター"を通してアーティストの創作意欲とはどこから繋がるのかを描いていると感じた。勿論全てのアーティストがピーター(ペトラ)のようではないとは思うが、"芸術と愛"とは極めて密接に関係しているのではないかと私も感じているからだ。
だからこそ、一時それが"壊れる"と、ラストに繋がるピーターに近しい"3人の女性"に対して"暴威を振り翳してしまう"ほど精神が壊れてしまうほど脆い事も示唆している。このシーンは極めてショッキングであったが、目の前で暴れられたにも関わらず、そのうちの1人ピーターの"母:ローズマリー"の落ち着いた対応に涙が出た。"娘:ガブリエル"は罵声を浴びせられ不憫でならなかったが…。

そしてピーター以上に辛い状況で奴隷のような扱いを受けている"カール"の存在がひたすらに気になって仕方がなかった。感情を出さず、言葉を口に出さない…まさに奴隷のような存在。
そんなカールがラストにピーターにした事が、とてもスカッとさせられていて、本作がピーターの物語でもあり、実はほとんど"カールの物語"である事も感じる事ができた瞬間であった。カールには本当にこれから幸せになってほしい。

見終わった後にはいろんな感情が湧き上がった作品だった。
人の愛の可能性・心の脆さ・そして孤独を溜めた先…複雑ながらも考えさせられる作品だった。


同じくファスビンダーとオゾンのタッグ「焼け石に水」もぜひとも見てみたい
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