KnightsofOdessa

午前4時にパリの夜は明けるのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[人生の中で些細な瞬間を共有すること] 80点

傑作。2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。1981年、パリはミッテラン大統領誕生の狂乱騒ぎに包まれていた。これから新しい時代が始まるかもしれないという熱狂を、エリザベートはパリの高層マンションにある角部屋の広い窓から見下ろしている。3年が経って、結婚生活の終りを迎えたエリザベートは、自分と二人の子供たちの生活費を稼ぐために仕事を始めなければならないが、自分を捨てた夫への怒りと悲しみ、久々の仕事への不安に包まれていた。そんな中、いつも聴いていた深夜ラジオの収録現場で働き始めたエリザベートは、ガラス張りの角部屋やラジオのオペレーターブースなどから世界を眺める観察者として、"リスナーと繋がる"ことで世界と繋がり始める。ある日、収録にやって来たリスナーの少女タルーラが、その不幸な子供時代と家族関係を匂わせながらホームレス生活をしていると知ったエリザベートは、彼女を自宅の空き部屋に招待する。優秀だが方向音痴で詩人になることを夢見る息子マティアス、政治活動に精を出す娘ジュディットに比べて、タルーラは全く未来に興味がないように見え、そんな全く異なる四人は様々な場所で一点に交わり、些細な瞬間を共有する。子供たちの年齢が高いこともあるんだろうけど、エリザベートの"子供"ではなく"長い時間を共有した"ことにフォーカスしているので、ヴァンダもタルーラもユーゴもその輪の中に難なく入れる。この優しさ、ミカエル・アースだなあと。ついでに言うと、『グレムリン』を観ようとして忍び込んだ劇場でエリック・ロメール『満月の夜』を目撃して女優を志し、同年代だったパスカル・オジエが若くして亡くなったことにショックを受けるという、この唐突な喪失感もアースっぽい。

タルーラは映画について"映画によってはニ回目で、何年か後に観て、それで初めて好きになるような作品もある"と答えている。それは、夫に捨てられて塞ぎ込むエリザベートが、次第に自分の人生を取り戻していく過程と呼応している。気にもせずに過ぎ去ってしまった些細な瞬間の数々へのノスタスジアのような一作。
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