井手雄一

午前4時にパリの夜は明けるの井手雄一のレビュー・感想・評価

-
10代、20代、30代、40代と、それぞれに心のベスト映画というものはあるのだけれど、それらは特に名作だったり、映画として完成度が高かったり、物語に感動したとか、そういうものではなかった。
不思議と、「好き」になる映画というものが人生の節目にあったりする。いや、「好き」というのとも「心に残る」というのともまた違う。はやりの言葉で言えば「波長が合う」のだろうか?何か、「ああ、この風景や世界は自分の深層に残るな」と感じるもの。
※なので、恥ずかしくて作品名は人には言えない「ナニソレ?」的な映画が多いのだが。。
そして、自分が50代になった今、80年代パリを舞台とするこの映画は、国は違えど自分が子供の時代の物語であり、親の世代の話でもあり、母親を演ずるシャルロット・ゲンズブールは80年代から子役として活躍してきた自分にとっての永遠のミューズで、自分と同じ年齢で現在50代になったばかり・・。
そう、時代は違えど親になり10代の子を持つ現在の自分の物語でもあった。
この3世代にわたる既視感が、要所で差し込まれる80年代当時のアーカイブ映像と、ノイズフィルターと色調補正による美しい撮影によって融合し、ノスタルジーというよりも言葉通り既視感のある空気が全編に流れている。
物語(?)は、高校生と大学生の姉弟をもつシングルマザーの話で、家族がそれぞれ旅立つまでの81年~88年までの7年間の話。
左派のミッテランが大統領になり、世界は冷戦真っただ中で、夜の街にはパンクスな若者がたむろし、自由と混沌が共存していたまさに80's!
姉は学校で政治論争にあけくれ、弟は鬱屈として詩作に耽り、離婚直後の母は働いたことがないのに職を探さねばならず、その問題アリな家庭に、ワケありな家出少女が加わる。
特に息子と母の関係、2人の間に流れる空気が、時に張り詰めながらも心地よく暖かで、ぜんぜん完全ではないが家族って常にこうあるべきだよな。って思わせる。
各キャラクターの背景や葛藤は詳しくは語られないしあまり描かれない。ただ、丁寧に作られた人物設定とこの80年代の空気感、世界観が、登場人物各々の奥行を果てしなく感じさせ、物語を見ているというより、自分の「記憶」として消化されていく。という不思議な感覚を見終わったあとに感じた。
劇中、家出少女が「見ているときはそうでもなくても、後で良かったと思える映画はあるのよ」と言うシーンがあるが、10代の彼女にとってパスカル・オジェ主演の「満月の夜」がそうだったように、50代の自分にとってもしかしたらこの映画はそうであるのかもしれない。
最後に。
ファンだから贔屓目に観てることを差し引いたとしても、今回のシャルロットは母親役だけど超絶魅力的・・。
演技というか存在と仕草だけで、こんな自然なのに可愛いしカッコイイ!こんなお母さんいる?!
もともと父セルジュ譲りの変顔だし、ぶっちゃけ歳相応に老けてきたけど、それを隠すことなく、自然に演じれるのがカッコいい。
エマニュエル・べアールも大御所感出てカッコよかったし、家出少女役のノエ・アビタもめちゃ可愛いかった。自分が10代だったらマジ惚れしそーだな。
なんでフランスの俳優やシンガーってこんなナチュラルクールなんだろう??
井手雄一

井手雄一