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午前4時にパリの夜は明けるのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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エリック・ロメール『獅子座』でパリの夜景を星座になぞらえていたように、ここでも路線図上に点灯するランプ、パリに点在する人々を星座のように繋げる。ラジオ局でエリザベートが得た職も、リスナーの電話を受けて、パーソナリティへと繋ぐ仕事だ(自分も似たバイトを昔したことがある)。
シングルマザーのエリザベートも、そこに身を寄せたタルラも泣く。番組パーソナリティで人前ではクールなヴァンダも陰で泣く。自分が弱いから困ってる人を助け、他人の優しさにまた涙する。でも他者を受け入れ、心配したり叱ったりしつつ、それ以上やりすぎない。しつこく迷惑電話してくる番組リスナーが排除されるように、その線引きはハッキリしてる。他人は「家族でも専門家でもないからどうすればいいかわからない」し、居場所を与えることが精一杯だから。
そうやってすれ違う「夜の乗客たち」は「すばらしき他人」の関係だ。長いような短かい間、家族になったり、恋をしたり、食べたり踊ったり眠ったり、書いたり投票したり…朝と夜がすれ違いながら生活を共にして、変わってゆく。
パリの高層マンション、広い窓があって日当たりのいい角部屋(2階まである)、ゆったり居心地良さそうな赤いソファや日だまり。けれど、そこもずっと居場所ではなく。裏方エリザベートはマイクの前に、映画を観るのが好きなタルラは映画に出て。時間という乗り物は動き続ける。
後半になると、80年代当時の風景ショットがたびたび挿入され、既に過去として記憶の彼方に意識を飛ばす。思えばシャルロットもエマニュエル・ベアールも、バイク2人乗り(ノーヘル)も、映画館で観るリヴェットやロメールも、80年代アイコンとそのオマージュかもしれない。
『サマーフィーリング』も『アマンダと僕』もミカエル・アースは明るく緑あふれる昼の景色(にある喪失感)の印象が強いけど、主に夜と薄暗い朝の静かな街を暖色のトーンで包み込む。寒そうな冬景色でも、濡れて凍える姿でも、そこに暖炉みたいな火や灯りがある。でもラジオでは繋がり、TV画面の中ではよそよそしい。あの80年代から現代に至るまで、このようなすばらしき他人の関係があったといえるだろうか。やっぱり、そこにミカエル・アースらしい喪失感が伺えるのだった。
いやしかし、親が自分の日記を子に読ませるなんて!
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