Jun潤

遺灰は語るのJun潤のレビュー・感想・評価

遺灰は語る(2022年製作の映画)
3.7
2023.07.05

予告を見て気になった作品。
遺灰を中心に、戦後の混乱や、生きていた人の遺志から見つめる生きている人たちという、ドラマとドキュメンタリーを合わせたような感じ。

1936年、ノーベル文学賞を受賞したイタリアの劇作家・ピランデッロが死去。
その後10年間、遺灰は故郷のシチリアではなくローマの地で静かに眠っていた。
しかし時を経て、ピランデッロの遺書に従い、故郷に戻すべく遺灰の冒険が始まる。

なるほどなるほど。
日本と同じ第二次世界大戦での敗戦国となってしまったイタリアを舞台に、偉人とはいえ死んで灰となってしまった人物を軸に、戦後の混乱や遺された人々を、コメディも交えながら描いていました。

まずは飛行機の場面。
死体と一緒に飛ぶと墜落してしまうという根拠のない迷信に振り回されてしまう人たち。
多くの人が死んでしまった戦争の直後となればそのように考える人たちがいることは想像に難くありませんが、それは昭和の後半や平成ではあり得ない光景と断言しきれないのがまたちょっと恐ろしいところではありましたね。

次に列車で移動する場面。
ここに戦後の人々の様子が集約されていたように感じました。
乗客たちは移動したくて移動しているわけではなく、戦争が終わった後に故郷へと帰っていく、もしくは新しい場所へ向かう人たちの様子。
現代においてはほぼほぼ見られない光景だと思います。

そして遺灰はシチリアへの帰還を果たし、街の人々に迎えられて葬儀が催される。
偉大な人とはいえ、死んで灰となり、子供用の棺に収められ、小人の葬式だと嘲笑に晒される。
まー死人に口無し、死んだら灰しか残らないということがよく描かれていましたね。

最後に今作は何より、当時の実際のモノクロ映像に加え、今作で描かれた場面もまたモノクロということが肝。
1940年台という時代と、過去に戦争があったという事実がより克明に描かれていました。
その分、最後の最後に色がついていく場面はカタルシスを発揮させつつ、ノスタルジーも感じられる場面になっていましたね。

本編後には同時上映(?)でピランデッロが死の直前に執筆した作品を原作に映像化された短編『釘』もあります。
こちらは戦後というより、移民の苦悩を背景とした罪と、それにたいしてまさに人生を賭けて償う罰が描かれていました。
ピランデッロ自身の人生との共通性も感じられて、こちらも良い作品でした。
Jun潤

Jun潤