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遺灰は語るのumisodachiのレビュー・感想・評価

遺灰は語る(2022年製作の映画)
3.5


タビアーニ兄弟の弟パオロ・タビアーニ監督作品。

1934年にノーベル文学賞を受賞したピランデッロは、自分の遺灰は海にまくか故郷シチリアへ埋葬してほしいと言い残していた。しかし、ムッソリーニが彼の名声を利用するために遺灰をローマに留めてしまったせいで、実際にシチリアへと運ばれるのは戦後になってしまった。しかし、シチリアへの道中は容易ではなく……。ピランデッロの遺作『釘』の映画化作品との実質的な2本立て。

白黒の映像で淡々と進む珍道中は控えめなユーモアに溢れ、さらに周りの人々の人生の1ページをも垣間見ることができる、なんとも豊かなロードムービー。イタリアらしい緩さ、迷信に振り回される人間くささ、戦後ということを感じさせるあれこれ、死してなお愛されるピランデッロへの追悼(それは監督自身の兄に対する追悼にも重なる)。何年も何十年もの時間の経過の中で紡がれていく人間たちの営みが愛おしい。

終盤で一気にカラーになった後で始まる『釘』の映像化作品は掴みどころがないが、やはり何年も何十年もの時間の経過を感じさせる作品。過去の出来事が積み重なった後に生じる刹那の衝動が、その後の一生を決定づける様を独特のテンポで見せていく。

良い感じで力が抜けた熟練の腕を感じる秀作。なかなか面白かったよ!
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