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遺灰は語るのCookieMonsterのレビュー・感想・評価

遺灰は語る(2022年製作の映画)
3.8
ノーベル賞作家、ルイジ・ピランデッロの遺灰を巡る物語

ファシズム政権下の都合で意志に反してローマに安置されたシチリア出身の作家の遺灰を、戦後改めて故郷に埋葬されるまでを描く
これは遺灰を巡る物語だが、同時に権威に振り回されるコメディでもある
ファシズム政権、戦勝国であるアメリカという権威の都合で、またノーベル賞作家という権威の威光で、遺灰を携えて南下する男
敗戦の影響が色濃く残る中で、人々は踊り、酒を飲み、カードをし、性交する
権威である遺灰は、不吉の象徴として扱われたり、カードゲームの台にされたり、子供用の棺に納められ笑い物にされたりする
遺灰はいまはこの世にないものであり、大切なのはいまを生きている人々そのものだから

後半は一転してピランデッロの短編である『釘』が描かれる
On purpose (定め)として釘が残され、女の子同士の喧嘩が発生し、男の子がひとりの女の子を殺す
その短編で描きたかったことは別として、作中でこれを描いた必然性は、死の取り扱われ方だと思う
赤毛の少女は死ぬ
その少女の墓を死ぬまで男の子は訪ね続ける
相手への贖罪だとしても、1人の人の中でその死は悼まれ続ける
路傍の死ともいえる、権威とは真逆の死がいつまでも1人の男を捉え続けている

画面が色を取り戻す後半は生にも思えるが死でもある
その対照的な二部構成が、人間の滑稽さを不思議に描き出していた
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