脳内金魚

コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーの脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

3.2

このレビューはネタバレを含みます

ジョイの身の上話を最小限にし、「ジェーン」たちの話に主軸を持っていった構成は悪くない。

だが、違法と承知で中絶手術に荷担していたジョイたちが、同時にどう当時の社会に立ち向かい、何を勝ち取ったのかが描かれないため、結果として、単にジョイたちの「違法行為」が肯定的に描かれているだけになってしまっているのが残念。なぜなら、ジョイたちが行っているのはれっきとした「侵襲性のある医療行為」だからだ。それと承知で、「社会の被害者である女性」を女性が危険に晒すのはまた別問題かと。

劇中でジョイが「簡単な処置」と言うけれど、それは医療従事者/医師への暴言甚だしい。なぜなら、医師はその「簡単な処置」を習得するために、解剖や様々な症例、なによりトラブルシューティングを学び、習得してきた。その上での熟練した技術なのだ。採血や筋注ひとつとっても、単に「刺す」だけではなく、その前段階では膨大な知識と訓練がつまれているのだ。

もし、癒着例や予期せぬ損傷で出血をしたら?基礎疾患があったら?

彼女たちはモニタリングをしているわけでもない。「死者は一人もいない」とエピローグが入るが、それは結果論であり単なる博打に勝っただけであり、そのこと自体は決して称賛されるべきではないと思う。
さらに、警察が聴取に来たあと、ジョイは怖じ気づいて一度団体から逃げ出してしまう。それだって、散々自分で「簡単な処置」と言ってまわりを焚き付けたのに、自分が梯子を外したも同然だ。このあたりが、わたしにはジョイが時流(ウーマンリブ)に乗った有閑マダムとか、承認欲求を満たしたい人間に思えてしまい、非常なノイズになってしまった。

前半、「ジェーン」たちがもっとたくんの人を救いたと模索し、価格交渉しているシーンはよかった。ただ、途中から、それこそジョイが処置を担うようになってからは、目的と手段(女性の権利を守ることと中絶すること)が入れ替わっているように感じられてしまった。
もちろん、背景として性をはじめとした女性への教育(人権とかそういう点での)不足や、社会全体としての女性の権利意識の低さもあるんだろうが。

パンフレットを読んでも、実際の「ジェーン」がどうだったのか言及されておらず、どこまでが実話でどこがフィクションか不明で、その点も残念かな。もちろん、正論がその場の正解とは限らないが、状況を打開したいなら、最後まで守るべき因って立つところはあるかと思う。(この作品だと、確かな医療技術)その点が、この映画では蔑ろにされているため、全体的な満足度を下げている。ただ、問題提起や周知と言う点では、とてもよい映画だとは思う。
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