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愛と激しさをもってのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

愛と激しさをもって(2022年製作の映画)
2.0
※黒沢清xジャン=マルク・ラランヌ対談議事録もどきも収録

[生まれ変わった『私たちは一緒に年を取ることはない』] 40点

2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。夏の海辺でじゃれ合う二人の幸せそうな映像から寒そうなパリに飛ぶという、正にエリック・ロメール『冬物語』みたいなオープニングだが、戻ってきたパリで起こる奇跡的な出来事は全く夢物語ではなく、その後もひたすら誰かと誰かが喧嘩をしているという、寧ろモーリス・ピアラ『私たちは一緒に年を取ることはない』に近い、大喧嘩して次のシーンでは仲直りしているという喧嘩カップル映画である。主人公サラは元ラグビー選手で逮捕歴もある夫ジャンとそれなりに平和な生活を続けていたが、久々にジャンの友人フランソワに出会い、昔の恋人同士は微妙な距離感を取り戻し、ジャンはそれが気に入らず云々という話。サラはラジオのMCをしていて、レバノンの移民問題や黒人差別問題などに番組内で触れるが、ラランヌ曰く"防水加工されたように"社会とは切り離され、自分の問題に囚われ沈んでいく。その点で、サラの奪い合いやサラの錯乱は、全て彼女の内面で起こっているという自己セラピー映画としても観ることが出来るのかもしれない。ただ、『私たちは一緒に年を取ることはない』と決定的に違うのはその速度である。本作品は一つ一つのしょーもない言い争いに掛ける時間が長く、演出も映像も平板で、特にこれといった印象を残さない。まぁそもそもギャーギャー煩い映画が嫌いなのだが、それを差し引いたとしても中身はない。


<黒沢清&ジャン=マルク・ラランヌ対談議事録もどき>
・黒沢清所感
前半はサスペンス的、でもランドンはめっちゃ裏がありそうだったのにずっと良い人だった。逆にビノシュは"心の中の何かと戦っている"、そして疲れ果てる。ラジオMCの仕事や息子マルキュスの進路などで社会情勢が絡んでくるが、ビノシュは完全に切り離されている。今回の特集で『ブリュノ・レダル』『フランス』を観たが、三作とも"心の中の何かと戦う"映画だった。今年のトレンドなの?
→ラランヌ回答:そういう意図があったわけじゃないけど、コロナ禍などの時代性を帯びることはままある。ビノシュが社会と切り離れていると言ったが、彼女は"防水加工されたように"自分の問題のみに囚われている。SMSのメッセージについて"嘘だ"と応えたのも、自分で書いた事実すら自分の外側に行ってしまった結果、マジで書いてないと思ってる可能性もある(大意)。人間の暴力が出てくるのがドゥニらしくない。これまでは身体の柔らかさや官能性を重視していたが、今回はカサヴェテスやピアラみたいな、言葉に重きを置いている。

・黒沢清所感2
マンションが二人の理想郷になっている。最後にフランソワが侵入して崩壊。ラストで蔦の絡まったバルコニーを下から見上げる。そのときの壁の薄さが、二人の幸せと社会を隔てる壁の薄さに見える。
→ラランヌ回答:空間を侵食する映画だ。特に下の空間が上の空間を脅かす瞬間が三つある。①ランドンとマルキュスの会話、②新事務所パーティで下からビノシュが見上げる、③コランがバルコニーを見上げる。

・黒沢清の気になったこと
今回のラインナップは一般フランス人からして2020-2022年の仏代表と言えるの?
→ラランヌ回答:国民投票したら一本も入らないと思うので今回のラインナップは民主主義的な選出ではない。ちなみに、フランス人は全然映画館に行かなくなった。コロナ前の3割程度。アート系映画を支えていた中高年が映画館から離れてしまったのが原因。『トップガン』とかはコロナ前の水準に戻っているので確か。今回のラインナップだと、『ヴォイス・オブ・ラブ』はビックバジェットでちゃんとヒットした。あと、ロックダウン解除直後くらいのタイミングで上映された『セヴェンヌ山脈のアントワネット』も低予算ながらヒット。ずっと家にいたから大自然に行く映画を観たかったから?
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