かずシネマ

ブラウン・バニーのかずシネマのレビュー・感想・評価

ブラウン・バニー(2003年製作の映画)
3.6
カリフォルニアへ向かっている理由は仕事だが、かつて恋人と暮らした街も通るので、まだ整理のつかない気持ちがぶり返す。
他の女性に恋人デイジーの影を求める。
だけど当たり前に「やっぱこのコはちゃうわ」となる。
利己的で気まぐれに、それをされた方はたまったものじゃないけど。
気持ちは分かる。
ヴァイオレット、リリー、ローズ。
花の名前。金髪の似た髪型。似た歳頃。

ギャロはほんまに画がええんよな。
色調、構図、動と静、アップと引きのバランス。音とのバランス。余白のとり方。
少し汚れた車のフロントガラスからの景色を曲とともに只流したシーンが好き。
雨の高速も、晴れの地平線も。
作品半ばの白っぽい塀源でバイクを走らせるシーンも好き。バイクを車から下ろす時の構図が、メインの物が全て下3分の1(地平線と同じ範囲)に納まっていて拘りを感じた。
他の音と比べてバイクの音がうるさかったのは気になったかなぁ。

賛否両論は十中八九あのオチの部分によるものだと思う。
(淡々とした日常系ロードムービーの部分が合わない人は単に好みの問題かと思う。)
何があるのか、という様な、日常系のロードムービーの「先」に期待をしちゃアカン類の作品なんやと思う。
R15がついてるのもラストの15分くらいのせいやろし。
ほわっとした惑いのある綺麗な世界から、急に現実に引き戻される事に抵抗が起こるんちゃうかと思う。(ほんまは逆やけど)
ギャロのキャラにしても、未練たらたらで可愛らしくうじうじしてた仔鹿が急にライオンになった、みたいなギャップと取ってしまっても抵抗が生じると思う。
あと、あの「逃避」と「甘え」の罵りの言葉を額面通りに受け取ってしまうのもNGと思う。額面通りに受け取ってしまったら、そらやってる事とやった事とが相まって最悪な印象にしかならない。

自分は終始「めんどくせぇ男だわw」と思いつつこの作品も好きだと感じたけど、「なんだよ、それ…」と思ってしまう人の気持ちも分かる気がするわ。
それか、自分の本質と近すぎて「観ちゃおれん…」となるのも分かるな。

起こった事や自分がした事から逃避しなくちゃ破滅しそうなくらいに苦しい思いを抱えて、でもそれは例え誰かに寄り添ってもらえたとしても解決するものでもなく。
甘えたくても甘えられない、八つ当たりしたくても八つ当たりできない。
受け入れてほしい。
寂しくて仕方がない。
気持ちを伝えたいのに伝えられない。
時間も薬にはなかなかならず。
手っ取り早く踏ん切りをつけるには、自身がそれと向き合って解決しなくてはいけない事で。
で、この作品はそれをずっと観せられる訳で。再生までの不器用さを。

あのシーン含めて、こういう面倒でうじうじして、不器用で情けない部分を自然と晒せるの、ギャロの強みだと思う。
それをナルシストだと切って捨てたらそれまでだけど。(ナルシストと思う人には鼻について合わんのだろうな、とも思う。)
普遍的と思う、自分は。

彼女が現れた時、カメラが全く手振れをしなくなったのが心理面を表していたと思う。
あと最後の方、2人のファッションがブラウン系の色相で統一されていたのが好き。


多分この作品の評価諸々のせいで、この後のギャロは作品を撮ってないんよな?
もしかしたら関係ないかもしれんし、それだけじゃないんかもしれんけど。
ギャロももう還暦やし、そろそろそちらへ気が向いたタイミングでまた映画を撮ってほしい。。

でも正直あのシーンは無くても良かったかな、とは思う。
正確には「映さないようにしたら良かった」のだと思う。ああでないと(只のラブシーンにしたら)意味通じないし。
思うけど、あれがセックスだったら(本番だったとしても)こんなに多くは文句出なさそうなのに、オーラルとなったら途端に批難される…ってのも不思議な話やな、とも思う。一方的だから?
単純に女優さんを心配するってのなら分かるんだけど。


(以上、20210914 久し振りの再鑑賞時に空白だったこの感想欄を埋めた。)
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