ヨーク

見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界のヨークのレビュー・感想・評価

3.6
菊川のストレンジャーでの北欧映画特集の2本目で、先日感想文を書いた『画家と泥棒』からのハシゴです。
ま、本作『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』も面白くはあったんだけど『画家と泥棒』から続けて観たらちょっとパンチが効いてないというか『画家と泥棒』の方がバシバシにエンタメ的にも面白い映画だったのでちょっと見劣りしたというのはある。
映画の内容はタイトルでもあるようにヒルマ・アフ・クリントさんについてのドキュメンタリーです。ヒルマ・アフ・クリントさんと言っても多分多くの人は知らないだろう。正直に言うと俺も本作を観るまで、というか本作の予告編を観るまで知らない人だった。彼女は20世紀初頭にカンディンスキーよりも早く抽象画を描いたと言われている人で、生前は売れずに知る人ぞ知るという感じで世界的には無名な画家だったのだが、死後20年以上経ってから「再発見」された画家らしく、本作はその彼女の軌跡といち早く抽象絵画を手掛けたという業績を紹介するドキュメンタリー映画である。
ハシゴした『画家と泥棒』も芸術を扱ったドキュメンタリーだったが本作もモロにアートの映画。というかこの北欧映画特集は全9本だけど全部S-トに関わる映画なんですよね。実は今この感想文を書きながら気付いたのだが…。ま、絵画も含めた芸術全般は好きなので本作も興味深く見れましたよ。もっとも、俺としては本作でも度々俎上に上げられていたカンディンスキーが抽象画の始祖というのも、まぁ一つのジャンルにまで昇華したというならばカンディンスキーだろうなとも思うが個人的には晩年のモネはすでに抽象画の域に入った作品を描いていたと思うで、本作で「再発見」とさして描かれているヒルマ・アフ・クリントさんに対しても、まぁそういう人もいたんじゃない? くらいのちょっと冷めた目で観てしまったところはある。もちろん、ヒルマ・アフ・クリントさんの作品はモネの光の効果の追及の果てにある抽象性ではなくてハッキリと記号としての抽象絵画、とその記号の中に内包される神秘性に迫ったものだと思うのでモネのそれとは違うとは思いますが。
そう、神秘が本作のヒルマ・アフ・クリントさんの作品では重要なモチーフであったな。何か彼女は元々霊的世界とか神智学とかそういうのに興味はあったらしいんだが、妹の早逝がきっかけでよりそういった方面への関心が深まって自身の絵画作品にも反映されて行ったらしいんですよね。抽象性と神秘性というのは食い合わせが良いに決まってるんだからそのこと自体は納得しかないのだが、論理的な方向から抽象性を突き詰めていくんじゃなくて個人的な経験からそっちに行くというのは面白く、多分天才肌の人だったんだろうなぁ、と思いました。
しかしドキュメンタリー映画としてはその辺の紹介とかがややお勉強ものとしての感じが強くてちょっと退屈を感じるところもあった。彼女の関係者や美術関係の人たちへのインタビューからヒルマ・アフ・クリントさんの姿を浮き上がらせていくという手堅い構成の内容なのだが、それはまぁ手堅いけどベタというか面白みはそんなにないというところでもある。ぶっちゃけネトフリとかアマプラでやってるのを自宅でダラダラしながら観るくらいでちょうどいいかなぁ感はあった。
なので普通のアートドキュメンタリーという感じなのだが、最初に書いたように俺はヒルマ・アフ・クリントさんという人自体を知らなかったし、彼女を紹介する映像作品としては十分よいものではないだろうかとは思う。一人の画家を新しく知ると自分の中でまた新たな窓が開くような感じがするのでね、ま、興味ある人は観たらいいと思いますよ。
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