Hiroki

PLAN 75のHirokiのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.0
2022カンヌのカメラドールスペシャルメンション(新人特別賞みたいなニュアンスでしょーか)作品。
カンヌでも非常に高評価だった今作は、同じくカンヌのコンペに参加していた是枝裕和が製作総指揮を務めたオムニバス映画の一編を元に作られた。

興行的にはミニシアター中心ながらなかなか素晴らしくて、公開3週で1.3億。この決して見やすくない内容と規模感にしたら大健闘だと思います。(だってキンプリ永瀬廉&池田エライザ主演『真夜中乙女戦争』の1.1億や綾瀬はるか&長谷川博己主演『はい、泳げません』の1億に勝ってますからね!)
やはり“カンヌで受賞”の冠は大きいですねー。

早川千絵はテレビ東京のNY支社やWOWOWで働きながら映画学校ENBUゼミナールに通って映画を勉強していた人物。(ENBUゼミナールは濱口竜介が講師をして『親密さ』を制作したり、シネマプロジェクトで上田慎一郎が『カメラを止めるな』を撮ったりと現代の日本映画界にとって重要な存在。)
ここの卒業制作『ナイアガラ』がカンヌのシネフォンダシオン(世界の学生の制作した映画から優秀作を選出)に入選し、オムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編を任せられる。それが今作の元になる短編『PLAN75』でした。
ちなみにこのオムニバスの時にプロデューサーをしていた水野詠子&ジェイソン・グレイが今回もプロデューサーと、それぞれ製作総指揮/脚本協力をしております。

内容的にはめちゃくちゃ重い。
笑いとか全くないです。
“75歳になったら自ら死を選べる世界”という設定なのでそれはそーか。
前の席で観ていた年配の方々が終わった後に開口一番「設定の詰めが甘い」と仰っていた通り、たしかに設定段階での粗はあります。
1番気になったのはテクノロジーの描写について。
あの舞台となる日本のごく日常と変わらない雰囲気で、75歳になったら自ら死を選べるとなるとそんなに近くない未来を想像すると思うですよ。
それなのにテクノロジーが全く進歩していない世界はとても不自然に感じてしまった。テクノロジーの進歩によって解決する部分も少なからずはあるはずだから。
パラレルワールド的な設定なのか...
まーたぶんこれは予算の問題なのかなーと思います。
進化したテクノロジーも新しい世界観も再現するのはお金がかかるから。
せめて日本ぽくない風景にしてもらいたかった。どこか別の世界のように思える風景に。
しかしそーなると“私たちの問題”感が薄まってしまうからそれはそれで違うのかなー。難しい。
あとは日本といえばの年金についての概念が抜けていたのも不思議だった。
消えた年金...皮肉だったのか...

そんなこんなで細かい設定で気になる所はあれど、大枠の設定は興味深いし、全体的には良作でした!
これ設定的に“高齢者は悪だーっていう世の中”というのもあって。
高齢者が若者に襲撃されたりしてるんですよね。映像はないんですけど、ナレーションかなんかで情報が入ります。
だからこそ高齢者は自ら死を選ぶという選択と向き合う。
今は参院選の終盤戦ですけど、選挙のたびにいつも感じるのが世代間の分断をすごく煽っていると思うんですよね。

「高齢者しか選挙にはいかないから政治家は高齢者向けの政策しかやらないんだ。」
「若者の投票率が低いのが問題なんだ。」

もちろん間違いではないんですけど、じゃあ選挙に行く高齢者が悪なのか?
当然違う。
じゃあ若者が選挙に行かないのが悪なのか?
部分的に合っていると思うけど、でもじゃあ若者が選挙に政治に関心を抱かなくした社会は若者のせいなのだろうか。
これはモロに政治や社会全体の責任で、高齢者が悪い若者が悪いという話ではないはず。
私には今の日本の行く末がこの映画のような分断の最終形態が思い浮かんでしまう。
もちろん国が自殺を幇助するって事はあり得ないとは思う。でも形なんていくらでも変化して私たちの近くに忍び寄ってくるから。
そんな未来にしないために。
これはそーいう物語なんだろーなって途中から考えながら観てました。

そしてもう一つ上手な仕掛けがあって、それが役所のPLAN75の担当職員・岡部(磯村勇斗)の叔父さん(たかお鷹)の存在。
物語として岡部とPLAN75に申請する老女・ミチ(倍賞千恵子)、そしてPLAN75の施設で働く出稼ぎ労働者・マリア(ステファニー・アリアン)3人の群像劇で、終盤くらいまでこの3人のお話が交わる事なく順々にそして淡々と描かれていく。この誰にも感情移入させないドキュメンタリータッチのような進行が良い。
しかし途中で岡部の下に20年以上連絡も取っていなかった叔父さんがPLAN75を申請に来る。
それでも岡部は黙々と業務をこなしていくが、最後の最後にバーっと感情が爆発する。そしてそこで交わる3人の物語、という作り方が素晴らしい。
早川監督本当に長編デビュー?というくらい絶妙でした。
まー最後の終わり方は賛否あるだろうけども、個人的にはこの物語にはあのくらいで丁度良かったのかなーと思います。

キャストはなんと言っても倍賞さんですね。
序盤なんでもないシーンが永遠に映る。
ご飯を食べたり、爪を切ったり、歯磨きしたり。
でもこれって生きているからこそしないといけない行為なんですよね。
なんと表現すればいいのだろう。
倍賞さんが普通に生活してるんですよ。
普通に溶け込みすぎているというか。
そしてロッカーをきちんと拭く、寿司桶をきちんと拭く。こーいう行為全てに彼女の、ミチという人間の一貫性が見える。
ここらへんも含め倍賞さんは別格でしたねー。
あとはコールセンターの“先生”こと成宮役の河合優実も良かった!『サマーフィルムにのって』の印象的な演技から最近大忙しの彼女ですが、今作でも短いながらもインパクトのある素晴らしい役。ボーリング場のシーン素敵だった。
成宮が最終盤にもー少し絡んできても良かった気もするんだけど、それは少し感傷的すぎるのかもしれない。

今年カンヌで日本から来た早川監督と是枝監督(こちらは韓国映画だけど)が描いていたのが、同じ“命の価値”についてだった。片方は高齢者の、片方は赤ちゃんの。
きっとこれは偶然ではないのだろうなー。
早川千絵は今後も大注目です!

2022-54
Hiroki

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