うえびん

PLAN 75のうえびんのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.2
暗い、寂しい、侘しい

2022年 早川千絵監督作品

雰囲気は嫌いではありませんが、作品からのメッセージが全く読み取れませんでした。近い将来の日本の社会を考えるための一つのテーゼなんだと受け取りましたが、どんなに考えても希望が湧いてこないのです。

私が実際の福祉の仕事に従事しているからなのかもしれません。多くの75歳以上のご高齢者の介護、ご家族の相談支援、外国人介護職員の生活支援や研修などに携わってきました。人生の最期について、ご本人とご家族との意向確認、看取りの場への立ち合い、亡くなった後の諸々の手続きのサポートやお見送りの場づくりなどを行ってきました。リアルな体験をしているから、本作で描かれる世界観に違和感しか感じられず、あり得る世界だと思えなかったのかもしれません。

PLAN75は国の施策であり、それを行う会社は「あなたの最期をお手伝い」とのキャッチコピーを流します。主人公のミチ(倍賞千恵子)をはじめ、そのコピーを聞いた75歳以上の高齢者たちが、自分で自分の“死”を選択されるのですが、私の知っている実際は全く違うのです。

日本人の多くは、年を重ねると共に、“自分で生きている”から“自分は生かされている”といった心境に変化してゆくように思われます。自分自身もそうなのです。だから「天寿を全うする」という表現があるのだと思います。年をとってからの“生”(=“死”)は、自分のものではなく、親しい他者や自然と共に在るものになってゆくように感じています。

だから、自ら“死”を選ぶ人もいるでしょうが、そうしない人も多いと思うのです。その対比が描かれると、よりリアリティが増したのではないかと思います。

高齢者の最期は、ご本人と家族などの身近な人が一緒に考え、悩みます。ご本人が認知症などで意思表示できない場合は、家族だけで決められることも多いです。先を生きた人の“死”と後に続く人の“生”はつながっているのだと感じています。先を生きた人の“死”に際して、真剣に悩み考えることが、後に続く人の“生”を豊かにしているように思うのです。

本作に出てくる高齢者たちは、家族と疎遠で孤独だから自分で自分の“死”を選ぶしかないという設定だったのだと思いますが、ミチさんにしても他の高齢者にしても友人や知人はいたのだから、もっと話し合いがされてもよかったのではないかと思います。なぜ孤独な生活を強いられているのか、その背景を知りたかったです。また、折角フィリピン人の介護士がいたのだから、日本と西洋の死生観の違いが描かれるとより深みが増したのではないかと思います。

人の生き方は多様です。その先にある死に方も多様です。PLAN75は多様な死に方(生き方)をパッケージ化して画一化しようとするものです。送る人と送られる人の関係は、事務的で機械的に物事が進みます。そんな関係にもお互いに感情は揺さぶられます。だけど、両者のゴールである“死”に向かう時間に共に希望はありません。ゴールした後に遺された人に残るのは後味の悪さだけでしょう。社会の幼児化です。私たちの社会を絶対にこんな風にしてはいけないと強く強く思います。

実年齢も70歳くらいの女優・倍賞千恵子さん。違和感だらけの空想社会に暮らす独りぼっちの高齢者を演じる彼女の演技だけには一本の筋と希望が感じられました。置かれた環境、与えられたものに感謝して、お天道様に恥じないように一日一日を丁寧に生きる。その在りようが少子高齢社会における高齢者の存在意義を体現していたように思いました。
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