社会のダストダス

フォールアウトの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

フォールアウト(2021年製作の映画)
5.0
アマプラで鑑賞。これって日本では劇場未公開作品なのだろうか。現時点で見放題配信をしているサービスはないようだけど、課金して観るだけの価値がある作品だった。ジェナ・オルテガちゃんの可愛さ加点も相まって、これはもしかして大傑作なのではないか。少し前に『こぼれる記憶の海で』を同様にアマプラ課金で観たけど、最近劇場で日の目を見ない傑作が多い気がする。

スクールシューティング…銃乱射事件を題材にした重いテーマの作品。

しかし、あえて言おう。これはジェナ・オルテガを愛でる最高の映画であると!しかも可愛さだけにとどまらず、希望と絶望の両方を体現するラストシーンが圧巻で、スターフロール入ってしばらくのあいだ放心してしまった。

平穏な日常を切り裂く銃乱射事件。その瞬間、偶然トイレにいたベイダ(ジェナ・オルテガ)とミア(マディ・ジーグラー)、血まみれで駆け込んできたクイントン(ナイルズ・フィッチ)の3人は、到着した保安官と犯人の銃声が響き渡るなか身を潜める。そして、惨劇をやり過ごした彼らには過酷な現実が待ち受けていた。

あらすじだけ読むとこの映画、暗くて重くてお堅い作品だという印象を受けるかもしれないけどそうでもない。

ファーストカットの歯ブラシ咥えて、おしっこしながらの二度寝をかますという三刀流の奥義を決めるベイダを演じるジェナちゃん、彼氏とはスマートなウ○コ💩トークで盛り上がる。予告とかでどんな映画かを知らずに観ていた場合は、このあとあんな惨劇が起こるとは誰も思わないだろう。

トイレに隠れていたあいだの6分間の事件、その影響は生活を一変させる。再会した学校では登校時に金属探知機を当てられ、テロに遭った際の講習会が行われ、さらに親からは半ば強制的にセラピーに通わされる。セラピストの人が見覚えあると思ったらシャイリーン・ウッドリー、観客視点から見るとセラピーのシーンでベイダが不自然に明るいのが痛々しい(でも可愛い)。

事件後、同じトイレに隠れた仲であるベイダとミアは、お互いが精神的な支えとなっていく。

ミアがベイダにハッパのやり方を手ほどきするシーンは、本来はいけないことだと分かっていながらも微笑ましいシーンになっている。ラリってプールサイドで独り言をまくしたてるベイダがメチャクチャ可愛い。事件当時、血塗れでトイレに駆け込んできたクイントンはこの作品で一番、陽のキャラクターで、彼の存在が暗くなるしかありえないようなストーリーの本作を一定の温度に保っている。

事件後のトラウマを表すシーンとして最も象徴的なのが、ベイダが学校のトイレに入ることが出来ず、急いで帰ろうとするも漏らしてしまうところ。トイレの個室で銃声を聞き続けた恐怖が蘇る。そのあと学校生活での不安を打ち消すために薬物に手を出しちゃうけど、その展開が単なる闇堕ちでなく結構コミカルに描かれているのが面白い。授業中にマジックペンを噛み続けて毒霧を吐いた後のグレート・ムタみたいな顔になってしまってからの、階段を芋虫のようにノソノソと転がり落ちるシーンは可愛すぎて巻き戻してもう一回観た。

パニック状態、泣きの演技、ラリった演技、コミカルなシーンまでジェナ・オルテガの引き出しの多彩さに驚かされる。ある意味では事件を経験したことにより繋がったベイダとミア、クイントンとの友情。事件を風化させないようにと活動する友人もいるなかで、停滞していることに対する焦りを抱える。あんな事件が起これば誰だって不安だけど、それぞれが立ち直る過程も速度も当然異なる。

事件を起こした張本人は名前が出てくるのみで、どんな人間だったか、なぜ事件を起こしたかは分からない。動機なんて無いのかもしれないという曖昧さが、明日どこかの街で起こるかもしれない生々しさとして現れる。そしてラストシーン、“Fallout”という単語には放射性降下物、副産物、脱落者などの意味があるらしいけど、この先のベイダが見続けることになる灰色の世界を想像させるような戦慄のフェードアウトに息をのんだ。