猫脳髄

マーターズの猫脳髄のレビュー・感想・評価

マーターズ(2007年製作の映画)
4.3
これはいい。素晴らしい。アレクサンドル・アジャが「ハイテンション」(2003)でスラッシャー映画に導入した、フランス新過激主義(New French Extremity)に連なる名作である。

復讐譚からトーチャー・ポルノに転調したかと思えば、なんと「彼岸」の深淵に迫らんとするアクロバティックかつエレガントなシナリオに痺れる。"Martyrs"(殉教者)の看板に偽りなし。100分の尺で無駄なくやってのける手腕に脱帽である。

超越論的"beyond"を志向する作風としてはイタリアのルチオ・フルチ、わが国では高橋洋を彷彿とさせるが、そこはフランスで、ジョルジュ・バタイユの唱える「供犠」論に接続するような深遠さを備えている。清朝での凌遅刑の模様を撮影した写真を収録した「エロスの涙」(1961)は確実に参照しているはずだ。パスカル・ロジェは、あろうことか、バタイユが「恍惚的であると同時に耐え難い苦痛の像」と称したそれを再現しようと試みるのである。ここまでやってこそ、映画は彼岸に、彼方に到達しうると言わんばかりに。

観客は無惨な仕打ちの数かずに吐き気すらおぼえるだろう。しかし実はその先に、「恍惚」(と取りあえず仮称する)の瞬間が待ち受けている。それを映画に埋め込みえたことが、本作の発明であり、追随を許さない高みなのだ。
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