angie2023

ドント・ウォーリー・ダーリンのangie2023のレビュー・感想・評価

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想像以上に、シンプルで分かりやすい話になったのは、サバービアがステレオタイプ的に描かれることに不自然さを感じたところから、予想がついていたかもしれない。50年代を思わせるが、でも没個性的な典型的な世界への違和感は、やはり当たりをついていたが、それが現代的なテクノロジーへの妄想へと繋がっているとは思いもしなかった。

私は正直、このテクノロジーへの過信ともいえよう、映画の中でよくある、「ありえない技術開発」には、あまりリアリティを感じないのである。だがら、物語の処理が甘くなってしまったのは無視ができない。前半にかけて描かれる不気味さが、調子の良さを表していたのにも関わらず、物語の核心部分に賛同できない、という、少し残念なまとめ方であった。

だが、このテクノロジーの過信も、実は現代的問題意識に紐付いているところが、この映画の秀逸な批評性へと繋がっている。ネタバラシのように突如、アリスがスマホを持ち、ジャックがPCをみて、舞台がまさに現代ということが示される。彼がどうしてこの没個性的サバービアを選んだかというと、貧困と男女間のアンバランスさに紐付いているわけであり、この問題感は、まさにサバービアとは対極をなしている。全てが平等のもと、暮らしが保障される、ある意味「社会主義」的な共同体に対し、彼らが属し、そして私たちもいる、この現代というのは、あまりにもアンバランスであるのだ。この問題を、テクノロジーへの過信により解決させ、そして、サバービアの幻想を出すことで、かえって現代への問題を炙り出していく。この映画の構造は、まさに対極的であり、それはシンプルなものだった。テクノロジーへの過信によって、いわば乱暴に、その問題提起が行われるという点では、この物語は残念であるが、だが、シンプルであるが核心的なテーマは、首を触れない重大さがある。

そして、サバービアでの「男女」の分類世界観、すべてがコントロールされ、支配下に置かれ、そして閉じ込められているという設定から、主人公が逃げ、抜け出していくという物語のエンディングは、たとえ貧しくとも、現実を生きる自由を選ぶという、強烈な価値観に溢れている。と同時に、夫を殺してまでも(正当防衛とはいえ) 逃げていく彼女の逞しさは、まさにフローレンスピューだからこそ演じられたというか、その納得感もありなから、同時に感動すらした。自己防衛とサバイバルへの根性をもつことが、サバービアの幻想を打ち砕き、テクノロジーへの過信からも逃げることができるのだろうか。物語のその後は、都合もいいように描かれないことが、少し悔やまれる。彼女ならやれる、そう思わせるエネルギーがあるからこそ、その後の姿を見てみたかった。
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