ぶみ

ドント・ウォーリー・ダーリンのぶみのレビュー・感想・評価

3.5
〈現実〉か〈悪夢〉か。

オリヴィア・ワイルド監督、フローレンス・ピュー主演によるスリラー。
完璧な生活が保障された街に住む主人公が、隣人が謎の男に連れ去られるのを目撃してから、次第に不気味な出来事が巻き起こる姿を描く。
主人公となるアリスをピュー、アリスの夫・ジャックをハリー・スタイルズ、ジャックが関わるプロジェクトの創始者・フランクをクリス・パイン、フランクの妻・シェリーをジェンマ・チャンが演じているほか、アリスの親友・バニーをワイルド監督自らが演じているのも見逃せない。
物語は、1950年代、砂漠の真ん中に作られた街を舞台として、アリスがとある出来事をきっかけに、街そのものに疑問を持ち始める様が描かれるのだが、キャッチコピーに「ユートピアスリラー」とあるように、白い壁、椰子の木にプールと、誰もが一度は憧れるようなザ・アメリカといった様相の街並みが鮮やかな色彩で映し出されており、それが完璧すぎて逆に不穏な空気感を煽る形になっている。
そして、そこの生活も然りで、夫は仕事、妻は専業主婦という日本で言えば高度成長期にもてはやされたような価値観のものであり、その日々に対して何の疑問も抱いていない脳筋状態の人々も、考えてみれば怖いもの。
何より、そんな生活に対して疑問を持ち出し、徐々に精神的に不安定になっていく主人公・アリスを、ピューが見事に演じ切っているのだが、アリスの服装は七変化かのように日々変わっていき、時にゴージャスなドレス、時に短パンにワイシャツ、そして程よい肉付きの体型と、男たちはこんなピューが見たかったのでしょ、とワイルド監督に見透かされているような気がしてならないのは男の性か。
そして、迎えた結末は、正直どこかで見たような展開であり、突如繰り広げられるカーチェイスも唐突感が否めないものの、本作品の主眼はそこではなく、前述のような、男性社会、男性視点で描いた理想郷に対し、それを否定するにしても、心地良いとして受け入れるにしても、考えるということを放棄しないよう警鐘を鳴らしていることだと思えば、説得力のある展開であるし、時折挿入される謎のダンス映像も納得。
お世辞にも、決してわかりやすいと言える内容ではないため、映像の端々に感じられる違和感の積み重ねと、それに対するカタルシスが直結していないのだが、何が幸せかを問いかけるには十分なクオリティであるとともに、ピューの喜怒哀楽を堪能できる一作。

誰の世界だ?
ぶみ

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