ゆかちん

ドント・ウォーリー・ダーリンのゆかちんのレビュー・感想・評価

3.1
お、おお、おおお。
男性と女性に関する社会風刺というのか、マチズモが産む恐ろしさや愚かさというのか、を、ブッ刺してるなぁと。
色んなメタファーとかもあって、なるほど、となった。

オリヴィア・ワイルドが監督なんだけど、彼女は「ブックスマート」といい、中々視点が鋭い作品をカラフルな表現で作るなぁ。




完璧な生活が保証された街で夫ジャック(ハリー・スタイルズ)と幸せな日々を送るアリス(フローレンス・ピュー)は、ある日、何かを知ってしまったという隣人の妻が自殺し、赤い服の男たちに連れ去られるところを目撃する。
それ以降、彼女の周囲では不可解な出来事が続発。次第に精神が不安定となり周囲からも心配されるアリスだったが、あることをきっかけに、この街に疑問を抱くようになるーー。



街並みや建物、家具、バス、服などが50年代のアメリカデザイン。どれもカラフルで可愛くてオシャレ。

車が並んで走ってるのめっちゃ可愛かった!
でも、みんな同じサイズの家で車で同じような生活を毎日延々とするって、こうやってみると不気味。
しかも、夫はなんの仕事をしてるのか話さない。
住民のテンプレな笑顔が怖いよ😱


フローレンス・ピューが色んな服を着ていて可愛かった!
あと、メイクで顔変わるね〜。
元々お顔立ちハッキリしたフローレンス・ピューでも、目のメイクでだいぶ印象変わった。
でも、彼女がこんなステレオタイプで健気な古いタイプの奥さんで収まるわけないよねーて思ってたら、やはりw

ユートピアサスペンスということで、めっちゃ完璧で理想的な生活の中で異変を感じ、これは現実なのか?真実は何なのか?を様々な障害の中、知ることになるという。


いやー、そりゃ、ここは洗脳された空間だろうなとは最初から思ってたけどさ。
それにしても酷いな。。
自覚があるだけにワンダヴィジョンより厄介だ。


ネタバレになりますが…。


この街は、実は仮想空間の世界。
現実に不満を持つ男たちは、ビクトリー社と何かしらの契約を交わし、妻となるべき女性を、本人の同意なしに、この仮想空間に閉じ込め、自分たちもそこで完璧な夫として暮らしていた…ということ。

仮想空間に閉じ込める方法が両手両足を固定して機械に接続して寝たきり。目は開いて洗脳し続ける状態。

ビクトリー計画は、「男性が完璧な人生を過ごすため」に作られている。
劇中、ジャックは男達は自分の妻だけをみていればよいとかいうてた。
つまり、妻は奴隷であり、同時に男性の所有物ということ。

ヒエェっ。。人権無視かよっ。
タチが悪いのは、「この仮想世界に閉じ込めることが妻にとっても完璧な人生なんだ」と思い込んでること。
オイッ!自己中過ぎるやろ!

そして、これを理想郷としてしがみついてる男性は、器が小さ過ぎて浅はかで惨めで哀れで愚かで虚しいなぁと。。


この作品は、こう表現をすることで、仮想空間の「男にとっての古き良きアメリカ」はもう過去の産物であり、男女の役割も変化してきた現代において、男達はすでに生活力を失い、威厳やプライドを無くしつつある、ということをあぶり出す。
(まあ、実際は、その人の努力とかで、ちゃんと生活力があって威厳もプライドもあるような男性もいる。でも、それが「男なら誰でも」な時代では無くなったということ。)

だからこそ、男たちは理想郷である「ビクトリー」に執着する。それはもう一度、あの輝かしかった男たちの時代を取り戻したいから。

…なんて惨めで愚かな…。。

いや、そりゃ、現実うまくいかんくて仮想空間に逃げたくなるのはわかる。
その人にとってかつての男の時代にいたいのなら仮想空間に隠るのは勝手。
その価値観が良いと思うのは人それぞれ自由だとは思う。それに共感するかは別として。
でも、それに他人を同意なく連れ込むのはあかんやろ。

私が、なんて惨めで愚かな、と思うのは、その理想の自分になる努力をしないで、その自分の価値観を他人に押し付けるところ。

まず努力せえや、と。
もちろん、努力しても無理なこともある。それは仕方ない。
でも、だからといって、酷いことして他人を巻き込んで押し付けるのはあかんやろ。しかも卑怯なやり方で。
彼女だから妻だから他人ではなく、自分の幸せと同じというのは、男としてというより人としてアウトすぎる。。
まあ、女は男の所有物という思想があるからそうなるんだろうけど。…て、そこが問題なのか!?

でも、これは男性優位思想からの視点やけど、逆でもそうよね。女性側から男性を型にはめようとするのよくない。
こういうのは、友達関係にも言えること。



ただ今作は、女性が男性から押し付けられてきた理想や家父長制とかの呪縛からの脱出というのがテーマなんやろね。
終盤に、「女たちは閉じ込められている」というセリフがあるの、仮想空間に閉じ込められているという意味なんだけど、「その価値観に囚われている」ということも意味してるのかな。

…この映画、日本の一部の政治家がみたら、けしからん!てなるんかな笑
だって、"古き良き"家父長制のニッポンがいいんでしょ?



ただ、そんな世界でも留まろうとしたり何かしようとしたりする女性もいて。

アリスの友人バニーは、ビクトリー計画の真相に気づきながらも仮想現実世界で人生を過ごしていたし、残りたいと思っていた。
その理由は、「ここにいれば子供を失わなくて済むから」という。
その子供たちは、現実の存在ではなくプログラム。それでも良いから子どもといたい、と。これは、バニーがかつて子供を失った経験があるからなのか、なんなのか、彼女自身が自分の人生から逃げたかったのがわかる。
なるほど。なんだか切ない。
その役を、監督であるオリヴィア・ワイルドが演じていた。自分が引き受けるというところに、何か意味を感じる。


あと、ビクトリー計画の創設者フランクの妻シェリー。
「完璧な良き妻」を勤めてきた彼女は、アリスが逃亡するのを止めれないフランクを最後刺殺する。
はて、これは…?と疑問に。
自分が洗脳されていたのを知り、よくも閉じ込めたな!てことなら、なんとなく腑に落ちるけど、「あとは私がやる」って言うて殺した。…どういうこっちゃ?
その後、アリスを追いかけてくる中にはいなかった。フランク殺して私が運営していくからってこと?それか、目を覚まして現実世界でアリスを襲うの?
多分、彼女は、この計画云々というより、夫の無能さを軽蔑したってところなんだろうけど…。。
それか、熟年離婚みたいに、全てわかってるけどフツフツと我慢してて、ある瞬間プチッとキレた、みたいな?
で、離婚ができない設定?時代の雰囲気?やから殺すしかない、とか?
このキャラの示すものをもっと欲しかったかな。
このシェリーを演じたのは、ジェンマ・チャン。ここにもいた!笑。やはりミステリアスな魅力〜。


ビクトリー計画を運営していたフランクに、クリス・パイン!
ワンダーウーマンのナイスガイな雰囲気はどこへやら。
胡散臭すぎて良かった!笑。
でも、クリス・パインが演じるとそんな憎たらしい悪い印象与えてこないの不思議。



そうそう。男性達の仕事ってなんだろうて思ってたんやけど、毎日本部へ行ってたてことは、現実世界に戻ってたてことなのかなと。
後半、ジャックがアリスに水を与えてたりしたシーンをみて、ふと。
つまり、男性たちが機械を外し、現実世界で目覚めて、寝たきりになっている妻を世話していた、という。
ヒエェ。。。

てかさ、ずっと寝たきりで目開きっぱなしで脳内は洗脳され続けるって、ヤバない?
絶対身体は衰弱するやん。頭もおかしなるやん。
バニーも子どもといたいからていうけど、これ続けてたら普通に死ぬやろ。
そういう点でも、この行為は犯罪だよなー。


私、音楽は好きだけどハリー・スタイルズの音楽はそんなに知らなくて。流行ってる曲とかは知ってるけど。
だから、ダンケルク観て、エターナルズのラスト少し出てきたのをみたので、なんか俳優のイメージも強くなってた。でも、これくらいしか出てないんやね。
今作、良かったと思う。
現実のジャックの不甲斐ない見た目も良かった。メガネ髭の冴えなさ過ぎるヒモ男子。
不思議な魅力ですな。


フローレンス・ピューの彼女らしい演技良かったな。
窓ふき中に壁と窓に潰されそうになったり、唐突に自分の頭をサランラップで巻き始めたり。
てか、この映画でもカーチェイスが観れるとは笑。
そして、全力で山場を走っていくところは、アイドル的なキラキラ感とか健気さとか守りたいとかはゼロで、こっちは必死なんじゃ!て自力で闘ってる感じなのが良かったな。

テーマとかハッとさせられるし、世界観はあるし、良かった。
カラフルで華やかな映像で、問題点を思わぬ角度から鋭く突き刺してて凄いなぁと。
女性だから男性だからってのは偏見でよくないと思うけど、女性監督の方が、こういう核心をブッ刺す作品が多い気がする。でも、見せ方は凄く華やかだったり、柔らかかったり、それでいて、とても冷静だったり。
そういう人が注目されやすいのかもしれないね。
今後も楽しみ!


ただ、全体的にボンヤリというか、中途半端な印象を受けたのは受けたかな〜。具体的にどこがというわけではないけど。。
ゆかちん

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