スギノイチ

花札渡世のスギノイチのレビュー・感想・評価

花札渡世(1967年製作の映画)
4.5
観ていくうち、ヒロイン・兄貴分・悪親分という仁侠映画お馴染みの人物配置なのに、登場人物の関係性が一直線的ではない所が変わっているなと思った。
ヒロインは鰐淵晴子で、その亭主のイカサマ博徒が伴淳三郎。 梅宮辰夫に横恋慕する小林千登勢。
その父親であり大親分が遠藤辰雄。さらに小林千登勢に焦がれる弟分(安部徹)、 鰐淵父子を付け狙う刑事(西村晃)…この登場人物達に1人として類型的なキャラがいない。
任侠映画様式に則った人間模様ではなく、重層的で実在感のあるドラマが展開される。
とても90分のプログラムピクチャーとは思えない、ちょっとした文芸大作を観た様な充足感がある。

ヒロインの鰐淵晴子はとにかく美しく、そのルックスも相まってモノクロの任侠映画なのに何やらモダンである。
モーテルでの契りから別れまでの一連のシーンは、任侠映画とは思えぬほどノワール的な画面作りだ。
これほど印象的なヒロインがいながら、もう1人強烈なヒロイン・小林千登勢がいるのも本作の強度を高めている。
本来、小林千登勢のようなかませヒロインはとっとと退場するのが定石だが、恋敵の城野ゆきを手下に輪姦させる悪行に始まり、梅宮辰夫を諦め安部徹の妻になってはかつての想い人を憎悪…最期まで醜くも哀れな女の執念を貫いていく。

その父親であり大親分の遠藤辰雄ときたらこれまた凄まじく悪辣で、「俗物」を極めた様な醜悪さを放っている。
娘とは血縁が無いらしく肉体関係を持っているフシも見られ、その上で鰐淵晴子の肉体を要求し、彼女に惹かれている梅宮辰夫に敢えて賭け勝負をさせる。
鰐淵晴子ににじり寄って迫るシーンの演技の緩急や、勝負を落とした梅宮辰夫の背中を蹴り去っていく憎々しさ。
梅宮辰夫をいたわったかと思いきや、振り向きざま仕込杖で襲いかかってくる時の暴力性。
どうせいつものやられ役だろうと思ったらとんでもない。歴代最恐の遠藤辰雄じゃないか。
さらに、暴君の遠藤辰雄に隠れ、安部徹や西村晃の陰湿な暗躍も梅宮を苦しめる。

でもまあ、本編中で一番魅力的なのはと言われれば伴淳三郎だろう。
おでん屋で飲んだくれて梅宮辰夫に語る哲学。鰐淵晴子が梅宮辰夫に「秘密」を告白している時の狸寝入り。
鰐淵晴子を賭けた梅宮辰夫との真剣勝負、そして醤油を使ったイカサマ。登場シーンの全てが良い。
しかも、これほど魅力的な人物の最期のシーンを敢えて描かない。ここはとても非情だが効果的に効いている。
そんな濃厚なドラマを経て、ようやく突入する梅宮辰夫の立ち回りは存外に格好良い。
2、3度火花を散らして刀を交わしてから相手を斬ったり、斬られた相手の腕がボトボト落ちたりと、モノクロ映像も相まってハードで迫力のある殺陣になっている。
結着と共に軍靴の音が聞こえ、時代の始まりと渡世の終わりを悟って嘯く梅宮辰夫の渋すぎる後ろ姿に、後年のおちゃらけスケベの面影はない。
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