たく

胸騒ぎのたくのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
3.7
ごく平凡で幸せな家族が、成り行きから親交を深めた家族に招かれた先で体験する違和感が何とも居心地悪く、ジワジワと観る者の心を侵食してくる不思議なホラー。外面を取り繕ったことが災いして相手のペースに巻き込まれるのが日常的に良くある普遍的な人間ドラマかと思ってたら、終盤は一気に宗教色が強くなり、よく分からない結末だった。自分としては、偽善から周囲に流される大人の愚かさを揶揄した話のように思えた。

冒頭から穏やかな映像とおどろおどろしいBGMがミスマッチで、何か良くないことが起こることを示唆する。デンマーク人のビャアンとルイーセ夫妻が、旅先のイタリアで仲良くなったオランダ人のパトリックとカリン夫妻の実家への招待を受け、迷った挙句に訪ねていく展開に早くもビャアン達のお人好しが垣間見える。彼らがパトリック達に手厚く歓待されてるように見えて、パトリックがルイーセのベジタリアンをすっかり忘れてていきなり肉を勧めたり、娘を見知らぬ子守に預けさせられて夫妻だけでレストランに連れ出され、挙げ句の果てに食事代を奢らされるという無神経な扱いを受けるのが胃が痛くなる展開。

ビャアンたちが逃げ出すチャンスが一度だけあるんだけど、序盤でビャアンが娘のアウネスが大事にしてるウサギの縫いぐるみを探してあげる人の良さが伏線になり、まんまとチャンスを逃す。ここで無礼を詫びてもう1日だけチャンスをくれというパトリックの言葉に乗っかるビャアンが、パトリックの前で自己嫌悪からの泣きっ面を見せるのが自分から相手の術中にハマってるみたいで嫌な感じだった。

終盤の絶望的な展開でレクイエム的な音楽が流れ、投石による処刑はおそらくキリスト教に重ねられてた感じ。デンマーク人とオランダ人の言語の壁がジワジワと効いてて、途中からカリンがアウネスをまるで母親みたくオランダ語で躾けてくるのが不気味。原題の”speak no evil”は「悪を言わざる」という意味で、舌がないために真相を話せないことに重ねられてる。一方の邦題は、ビャアンたちの心境と鑑賞中に観客が同時に味わう気分を表してて上手いと思った。
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