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胸騒ぎのBremingerのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
4.9
いやはや…よくもまぁこんな残酷な話を作れたもんだ…と唸るばかりでした。
居心地の悪さ、不快の積み重ね、臆病と優しさは紙一重、とんでもない物量で殴られっぱなしで、これに巻き込まれたビャアン夫婦はもう不幸としか…。

ベジタリアンのルイーセに肉を食べさせることを強要したり、子供にアホみたいに怒鳴り散らかしたり、子供を置いて食事に行ったり、側から見ても不自然な行動を繰り返すパトリック夫婦に対して観客とビャアン夫婦が怪しみながらも、どこかフランクな面を見せられるとまぁいいかってなってしまう感覚を共有してしまってるもんですからもうすでに恐ろしいです。

パトリック夫婦の息子のアビルがビュアンの後ろに立って口を大きく開けるシーン、めっちゃ不気味でここで何か口から手とか出てきたら笑えたのに…。口を開けたら舌が切れて一部無い…。ポストカードのデザインここかよ、しかも絶対これ後々の展開に活きてくるやつじゃんと俄然目が離せなくなりました。

この家から抜け出そうってタイミングで確実に抜け出せるのに、何かしらトラブルが起こって、多少登場人物たちが抜けているというのもありますが、基本的にはバカ行動ではなく巻き込まれて大惨事という形がストレスにならず(ある種のストレスではあった笑)観れたのはかなりデカかったです。
まぁ事故るシーンとかはなんでやねんとツッコミなりたくなりましたが、あの状況だと判断も鈍るわなと合点いきました。

娘がウサギのぬいぐるみさえ無くさなければこんな事には…このガキんちょめ、ちったぁ痛い目見なさいよ!と思っていたけれど、誰もそこまでやれとは言ってないレベルで酷い目に合わせるのでもうゾゾっとしっぱなしてした。

ビャアン夫婦にも多少なり問題があるのというのも面白く、ビャアン自身は気が小さすぎるのか判断が遅く、どうしても笑顔で色々乗り越えようとする姿は、それはダメだろ…と思いつつも、でも自分もこういう形になっちゃうよなというのがあって直視できなかったです。
夫婦で盛り上がってしまって、娘の声を遠ざけてしまった時も、パトリック夫妻の部屋に招き入れた事に対して文句を言っていましたが、それに対するカリンの言い分が真っ当すぎて、どちらも過ちを犯しているのに冷静に正論で捩じ伏せてきたので観ているこちらもキューってなってしまいました。

もうラストシーンなんか希望が全く無い、ビュアン夫婦なんとかして抗えないものかと思いましたが、娘が痛めつけられて連れ去られてなんて後に怒りも何も湧かず、こちらも辱められながら痛めつけながらの最期…。

何度も逃げるチャンスはあったし、何度も反撃できる隙はあったはず、でも何もできずあぁなってしまうラストは今作ほどでは無いにしろ、日常生活近しい経験をして困ったことが過去あったので、映画としてのエンタメ性よりもそのリアルさに相槌打ちっぱなしでした。

パトリック夫婦の目的が全く分からずじまいで終わったのも恐ろしすぎて、宗教文化のメタファーなのか、カニバリズムなのか、それともただの快楽殺人夫婦+協力者なのか、なんにしろここが全く明かされなかった作りが最悪の余韻を残していて最高でした。

根が優しすぎると他人の意見にNOが言えず、ちょっとした事でも我慢しちゃう、その最終形が今作のパトリック夫婦のような怪物を生み出してしまうのかななんて思ってしまいました。
でもこれは現実でもあり得なくは無い話なので、ヒューマンホラーの中でもかなり身近なテーマだったからこそより恐怖が増築されていた気がします。

役者陣も抜群に上手いのがさらに今作の君の悪さを際立たせていて、カリン役のカリーナ・スムルダースさんの早口で淡々と言い放つ所とか仕草とか、別に暴力的な事なんてしてないのに、かつてない恐怖が襲ってきました。この方の出る作品は追いかけなければならない…。

公開前にリメイクされる事が大々的に取り上げられていた事にはかなり疑問に思っていましたが、ホスト側の視点でのリメイクというのは斬新だし良いなと思いました。
でもホスト側の真相は分からないままでも良かったのになと思ってしまう自分もいるくらいこの作品に取り憑かれているみたいです。
ジャンプスケアに頼らず、しっとりとした演出でビビらせてくれる傑作怪作でした。

普段外国人観光客とよく接する仕事(職場が観光地でよく観光客が彷徨ってくる)なもんで、何を言ってるか分からんし、日本語喋ってくれよと思いながら仕事してるもんで、もしかしたらめっちゃ悪口言われてんのかもなぁと怪訝な目で今後見てしまいそうです。
しっかし今作を観る前に「ミッシング」を観て心抉られてからの今作のハシゴでさらに致命傷を負うとは…。大変な1日でした笑
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