ギズモX

地に落ちた信頼 ボーイング737MAX墜落事故のギズモXのレビュー・感想・評価

3.8
【深刻な怠慢の繰り返し】

航空業界を激震させたボーイング737MAXの二度にわたる墜落事故と、ボーイング社の実態に迫るNetflixのドキュメンタリー映画。
インタビュアーには事故に遭われた犠牲者の遺族や元ボーイングエンジニア、航空ジャーナリスト、更には『ハドソン川の奇跡』の元パイロット、チェズレイサレンバーガー氏などが応じています。

ボーイング737MAXは苛烈な開発競争を繰り広げていたエアバス社のA320NEOの対抗機。
60年代から製造を続けている機体、ボーイング737に燃費のいい大型のエンジンを搭載したら、機首上げ傾向が強くなり、失速の危険がでてしまったので、これを食い止めるための自動システム"MCAS"が搭載された。
しかし、このシステムには重大な欠陥があり、パイロットに適切な訓練を受けさせなくてはいけなかったが、それに対応していたら莫大な経費がかかってしまうので、ボーイングはあろうことか何の対抗策をとらずに737MAXを世に放ってしまった。
それが二度の墜落事故を引き起こした最大の原因となる。

なんか貨物ドアの設計に重大な欠陥があったけど、開発競争に負けたくないからといって放置した結果、大惨事を招いてしまったマクドネルダグラスDC-10に似ているなと思っていたら、本当にマクドネルダグラス社の名前が出てきて、しかも90年代後半にボーイング社を乗っ取ったことが詳細に説明されていてびっくりした。
利益至上主義と化したボーイングのずさんな製造ラインは絶句もの。
工場で働いているおっちゃんが、前の作業者が"時間がないから"と言って作業工程を省いていたことを知り、空いた口が塞がらなかったのにはめっちゃ同情した。

しかし、見終わった後に少しだけ疑問点が。
この映画では、マクドネルダグラスと合併するまでのボーイングは、それは素晴らしい会社だったと説明されているが、本当にそうなのだろうか?
元のボーイングの体制に戻ればそれで済む話でもないだろう。
二度とこんなことが起こらないように、品質コンプライアンスを厳守した具体的な組織風土の見直しと改革を提唱すべきではなかったか?
また、この騒動はエアバスとの開発競争の果てに起こったことであるようにも見える。
エアバスの安全性についても探りを入れてほしかった。
FAAの審査にも問題がある。
なぜ重大な欠陥がある737MAXを承認してしまったのか、ライオンエア610便が墜落した時点で運航停止措置をとらなかったのかをもっと問うべきだ。

あと、ここ日本では二度の墜落事故が起こった後でも、ANAが737MAXを導入する意向を示していたこと、日本国内での運航停止措置がとられたのがFAAよりも後だったことも問う必要があると思います。

【追記】
ボーイングが「今回の事故はアメリカでは絶対に起こり得ない」と、海外の航空会社やパイロットに責任転嫁していたことで思いだしたのが、2005年に起きた福知山線脱線事故とJR西日本の対応。

下のリンクはその福知山線脱線事故を事故発生当時から取材し続けているフリーライター、松本創氏の記事。
のぞみ34号重大インシデントが起きた頃に書かれた記事ですが、この映画が問いかけていることと通ずるものがあると考えています。

https://toyokeizai.net/articles/-/215325
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