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僕らの世界が交わるまでのエスのレビュー・感想・評価

僕らの世界が交わるまで(2022年製作の映画)
3.9
ある郊外の小さな町の親子のすれ違いのお話。母はDV被害者のためのシェルターを運営し忙しい毎日を過ごし、息子は2万人を抱える配信シンガーソングライター、現実に起きている社会問題に対しての意識がまるで違うふたりが、ひとつ屋根の下に暮らし、次第に衝突が激化していく。

正直みる前に目に入ってしまった評価の低さにめーちゃくちゃびびったし、何より内容がガッツリ政治的なので自分の中でどう纏めればいいかに苦悩して向き合うまでにめーーーちゃくちゃ時間かかった。画面から溢れ出るクリンジさ(って言葉大嫌いだけどそれでも使いたくなってしまう)(伝わってほしい)、なんで遠ざけるのか、なんでこんなに刺さってるのか分からないまま一ヶ月弱もやもやしつつの放置。まるで宿題のようだった。それはきっと自分にとって図星な部分があり、似たような部分を感じたからだと思う。”知識が無いのに議論は出来ない、自分というものが確立してないのに誰かに自分を知ってもらおうと感心してもらうことは出来ない。”はめちゃくちゃ耳が痛い台詞。

”ジギーを抱きしめたい、同時に引っぱたきたい”
今作に関しては、脚本を書いたジェシーアイゼンバーグのこの一言に本当に尽きてしまうのだけど、ネットが発達した社会において、良くも悪くも他人と繋がりやすく、ジャッジしやすくなってしまった世の中だからこそ、人と比べ、足りないものがものすごく気になり、とにかく焦る。今の世代で承認欲求に悩んだことがない人は殆どいないと思う。政治問題についてもそうで、誰でもネット環境さえあれば情報を簡単に得ることが出来る自体になったからこそ、無知は自己責任、言ってしまえば倦怠に直結するわけで、責任が問われてくる。これはもう避けられない。

フィンウルフハード演じるジギーをみて、社会問題を知るという行為の動機に承認欲求が強く結びつき過ぎてるのがヒェ〜となったのだけれど、それは生きてく上で大事な欲求でもあり、背景にこの家庭の存在、価値観が違っており、どこか引け目を感じざるを得ない接し方をしてくる母親が側にいて、充分な愛を感じれないということが根付いてるところがなんとも歯痒く胸を掻き乱すような思いだった。そして、不本意にも意図しない方向に息子が育ってしまったことに苦悩する母親を演じるジュリアンムーアが適役すぎていた。

今作と向き合う際に、インタビューがたっぷりだったパンフにとても助けられたし、監督であるジェシーアイゼンバーグが語った、昔撮影中にパニックになり撮影が中断されたが当時の監督グレッグモットーラに役者は心をさらけ出すのが仕事なのだからそうならない方が不思議だと言われて肩の力を抜いても良いと知ったお話がすごく良かった。

自慢ばかりする人に遭遇すると、”誰の愛が欲しかったの?”と聞きたくなる、だなんて、ジェシーアイゼンバーグ、物凄く聡明でこれから生み出す作品とんでもなくなるかもしれない。

一学歴にコンプレックスがある人間として、今作を通して学んだことは、特権だったりの自己認識を怠らないことと、謙虚に学んでいく姿勢を歳を重ねたとて、永遠に忘れちゃいけないということだと思う。

無知の知がはじめの一歩として、色んな人を嘲笑せずに手を取り合える社会になっていけばいいなとも思ったり。
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