試写にて。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の世界観とはある意味では真逆にあるような、大学でライティングを教える超肥満体で白人中年ゲイの自宅というごく閉ざされた場所で展開する物語。
その「境遇」それ自体に自らを重ねて「共感」を寄せられる人は極めて稀と言っていいであろう特殊な主人公のチャーリーとその人間関係という、出発地点にあるのは究極の「個」にも関わらず、この物語を下支えする文学や思想、哲学、カルチャーの存在によって、人が生きることという限りなく普遍的なテーマを物語るに至っていることに心の底から打ち震えさせられた。
ドラマティックな、非常に限られたシチュエーションの物語にも関わらず、スクリーンに存在する人間たち、そしてかれらの言動が、なんてことない生活の延長にあるような、それでいて緊張感のあるものだったがゆえに約2時間のあいだ息を呑みながらスクリーンに釘付けになった。
タイトル通り、『白鯨』の物語とそれにまつわるエッセイを物語の土台に、さまざまな暗喩が盛り込まれ、観る者にチャーリーという存在に、この世界のありようを、自分自身を重ねさせてしまう映画的表現力の豊かさ、そしてその深淵さに興奮させられ続ける。凄まじい傑作だった。
追記: 下記にて記事を作りましたのでよろしければ。
▼ 体重272キロの男に、観客は自らを見る。『ザ・ホエール』、現代の神話のごとき映画表現
https://www.cinra.net/article/202304-thewhale_ymmtscl