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ザ・ホエールのMoviePANDAのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.4
『 赦し 』

天に召される事を知ってて臨む、彼の“最後の5日間”を描く贖罪と赦しの物語。あいかわらず一筋縄ではいかない描写をしながらも、その当て擦りをあえてやる事により、各々における赦しというものを最後にしっかりと立ちあがらせている。

主演はブレンダン・フレイザー。出演作の中で好きなのは「ハムナプトラ2」と「悪いことしましョ!」。気付けば特撮コメディリリーフみたいな立ち位置になってしまってたけど、そもそも芸達者な俳優さんであり、自らの人生やキャリアとオーバーラップしたであろう今作でのオスカー獲得は色々な意味で感慨深い。

過食により体重が272Kgになった男。彼から繰り返される「おぞましいか?」という問いは、観ているこちらへの自問の促しに映る。その点、始まってすぐの自慰の描写には、面喰らわせる効果と共にそれだけで“そう”(=おぞましく)見せてしまうという意味、更には昇天に向かう=死に急ぐという意味も込められている様に感じた。また、ルッキズムの文脈も多分にあるとは思うが、実話を元にした原作がある事、また限られた時間でより効果的に主題を描く為の選択と考えれば、その見た目への批判がいかにトンチンカンなものであるかという事が分かる。

極端な怒りの象徴として描かれる娘は、彼の生きた証であり彼を唯一救える存在でもある。積年の罪は重い。動くことすらままならない体はまさに積もり積もった彼自身の罪のあらわれ。だからこそ、その重い罪に対し彼は簡単には“逝かせてもらえない”のである。

命を取り留める為の物と思えたアイテム。それこそが実は...という驚きと、愛憎のなぞらえとしての「白鯨」の意味。鯨である父とそれを追う船長は娘。娘を捨てた父という点で全く感情移入出来なかったはずの主人公がこだわる“赦し”というものに、気付けば心は揺さぶられ、途中からは最後まで膝を抱えて観ていた。僕にも一人娘がいる。もしも願いが叶うなら、自分も娘に...
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