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ザ・ホエールのshioのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.9
「ああ寒いほど独りぼっちだ」

主人公は井伏鱒二の「山椒魚」を
擬人化したような体重200kgを超える巨漢

だけど決して歪んでどうしよもない人間ではなく
家族や友人を思いやれる心の持ち主。

おぞましいほど太っており
鬱屈なほど天気も部屋も暗いのに
なぜか不快な感情を抱かなかった。

映画のほぼ全編が
そんな彼の部屋の中で繰り広げられる会話なので
いつしか自分も彼の部屋の中にいるような錯覚を覚える。
画面のサイズも意図的に絞られているのは
その窮屈そうな部屋を強調するための演出だろう


主要な登場人物は5人のみ。
その5人の関係性が物語が進むにつれて
どんどん複雑に絡み合っていく
脚本にただただ関心させられた。
点と点が線になっていく伏線回収も素晴らしい

ハッキリ言って登場人物の誰にも
感情移入はできなかった

自分は8歳の頃に片親になったり
大学教授の旦那が学生に手を出したり
親がゲイだと判明したり
新興宗教に見放された兄と死別したり
した経験もない。

それなのに心に響くものがあったのが
不思議な経験だった。

A24のこっち寄りの映画は
どうしても欧米の宗教観や死生観、
LGBTQに対する価値観などが絡んでくるので
ある程度の知識を要する。
日本に住んでいて普段
差別や宗教に触れることがない自分には
もっと教養として知らなきゃいけない概念が
多いことを痛感しました。

各キャラの演技が素晴らしかった。
セイディー・シンクは反抗期の娘の演技を
させたらピカイチ。
めっちゃ綺麗。

「何かを作る」ことの素晴らしさも感じた。
創作物はつまるところ自分の分身。

同じ文章が冒頭とラストで違う意味を持つ。
「白鯨」のエッセイで始まり
「父に対する等身大の娘の感情」で終わる
ラストの余韻は忘れられない。
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