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ザ・ホエールのkazuoのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.8
余命わずかな272kgの孤独な男の最期の5日間を描いた作品。

弱さや悲哀を感じさせるのだけど愛らしさもあるキャラクターは惹かれてしまうものがあり、かつ号泣案件なあのラスト…
愛、信仰、関係性…
主人公のアパートというミニマムな環境で繰り広げられる奥深い物語。傑作。

以下はネタバレありで


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ボーイフレンドの妹で看護師のリズ、カルトの宣教師トーマス、疎遠になっていた娘エリー、別れた妻メアリー、ピザの配達員ダン、これら登場人物には全て意味がある。

病院へ行く事を拒むチャーリーを説得はするが、最終的にチャーリーの意思を尊重するリズは尊厳死を、宣教師トーマスの信仰とチャーリーの娘に対する根拠の薄い絶対的な信頼の共通性は、何があっても根底に"信じる"があり、これはキリスト教における信仰の本質を、ピザの配達員ダンは残酷な大衆の好奇な視線を意味している。
そして娘のエリー。自分を捨てたチャーリーを憎み、嗜虐性を感じさせる言動は母のメアリー曰く"邪悪"な存在。そんなエリーが見せたラストのシークエンスにおけるセリフ「パパ」は作中初めて見せた憎しみのバイアスが掛からない父への愛情であり、その愛情に安堵すると共に涙した。そして気付いた。これは色々な要素があったけど少し先延ばしした父と娘の愛の物語だったんだと。

鯨を倒し復讐を成し遂げても何も変わらない、期待している幸福は訪れない事はわかっているのに…

生きるとは?
救済とは?
唯物論者で無神論者を自称しながら実は根底にその意味を人との関わりの中で求めている、それは父も母もきっと私に対しそうだったのであろう、私の心を抉った傑作。
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