ひでG

ザ・ホエールのひでGのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.3
改めて映画は凄い。次から次へと人間を、
人生をいろんな角度から深く、広く抉ってくる作品が現れる。

この映画も観終わって半日経っているのに
ずっと考えている、この映画を語る的確な言葉を自分は持っているだろうか、全く自信がない。

272kgの巨体の男の狭くて暗い部屋から殆ど出ないお話なのに、なぜ、こんなに深み(高み)があり、奥行きがあるんだろう。

チャーリーの部屋を訪れる4人の人間との
壮絶な会話は、時に残酷であり、時にスリリングであり、そして、極上に感動的である。

殆ど回想シーンを使わず、人物の会話だけで、時空や距離を飛び越える。

元は舞台劇の戯曲であるが、小さな部屋から自由自在に飛び立っていき、チャーリーと周りの人達を繋いでいく(いや、ちょっと違うな、解き明かす、それぞれの人生の関係性を紐解いていく、、)
映画の脚本としてもとても優れていると思う。

いろんな切り口から様々な解釈や感情をもたらしてくれる映画だ。

8歳の時、父親は別の男を選んで、自分と母を捨てて行った過去を忘れることができない娘エリーは、壮絶な罵倒をチャーリーに浴びせる。

そんな娘の書いた「白鯨」の感想文をいつまでも大切にしまっている父、

2人の「忘れられない」という感情と時間は、交錯することはなく、そこに安易な
父娘の再会話の感動はない。

罵倒は好きの反対ではないのだ!

突然、チャーリーを訪問して以来、「チャーリーを救いたい」と彼の元にやって来る新興カルト宗教の宣教師の青年トーマスも
この物語を複雑に多色にしている。

彼の存在については、一回の鑑賞ではなかなかまとめることはできないが、彼もまた
過去を忘れることが出来ずに、チャーリーを救いたいという言葉とは裏腹に、自らの救われたいんだと感じる。(皮肉なことにエリーの悪意によって突破口が切り開かれる。)

時たま、テレビから流される共和党に関するニュースは、言葉だけが先行して、人間の存在に迫れないあの元大統領への批判なのだろうか。

「人は支え合って時間生きていけない!」この映画を語るには、この言葉はあまりにも軽い。

しかし、もう一つの重要な人物、チャーリーの世話をしてくれている看護師のリズ。

彼女も辛い過去を背負いながら、それを忘れず、チャーリーと共に生きている。
彼女の存在は、どんな人生にも救いはあり、それは神や血ではない、ことを、
「人生は支え合いによって、意味を成す」ことを教えてくれる。

ここまで書いていて、僕はまだこの作品を
捉えていないと感じてしまった。

ただ、ラストは、安易な再会とは、全く時空が異なる、経験したことがない感動に
浸ることができた。

ブレンダン・フレイザー、凄い!
あまりにも使い古された言葉ですが、
まさに「魂の演技」でした。

僅差で「ペネデッタ」を超えて、今年度の暫定1位です!
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