たにたに

ザ・ホエールのたにたにのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.9
【自己肯定】2023年36本目

週末の自死に向けて5日間のカウントダウン。巨漢男チャーリーは、愛するパートナーの死と、そのパートナーのために家族を捨てた後悔に苛まれながら、自分の人生の目的を達成しようとする。必死に。
 
その目的とは娘への贖罪。
自分の蓄えた貯金を全て娘へと贈ること。
病院に行くことは拒み、ストレスによる過食症で脂肪も蓄えていくわけですが。。

数年ぶりに再開した娘はというと、彼女自身も世間から相手にされず、誰からも求められていない、愛されていないことに対して、非常に人間の愚かさを悟っています。
自分の意見を正直に話すことが受け入れられない世の中で、見た目は化け物であっても自分の父親はその正直さを受け入れてくれるのです。

2人を繋ぎ止めるのは"お金"と"贖罪"という言うなれば自分の都合のいい欲望なんですが、これこそが正直さの末路とさえ思います。

末路と言いましたが、これに対して誰も口出しはできないわけです。
あれだけ問題を起こした前アメリカ大統領のトランプでさえ未だ支持率は低くありません。作中ではトランプ支持者のテッドクルーズ上院議員のニュース映像も流されますが、差別主義者に票が集まるのも、アメリカ国民が自分の欲のために結果的に分断を続けてしまう末路を語っているように思います。

娘が8歳の頃に「白鯨」に対して感じる正直な感想。人間は、目に見えないものは先送りにしてしまう。
チャーリーも主題よりも内容の推敲を重ねることを生徒たちにオンラインで講義します。

外見を解放させることで、正直さを露わにすることは大変勇気のいることです。人間は自分の都合の良い事実ないし事実に思われるようなものに囚われてしまいがちです。
これこそが人間のくだらなさだし、頼らざるを得ない自己肯定の方法でさえある。

チャーリーの一方的な教鞭と、娘への愛は共感できかねるのですが、互いにわかり合おうと人生の共創ができれば納得のいく形で終えることができるのかもしれないとも思います。

しかし、陰謀論や他人を否定することに終止するのは愚かな人間の考え方だと思わされるのです。
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