ぶみ

ザ・ホエールのぶみのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0
僕は信じたかった。

サミュエル・D・ハンターによる同名舞台劇を、ダーレン・アロノフスキー監督、ハンター自らによる脚本、ブレンダン・フレイザー主演により映像化したドラマ。
過食により余命幾ばくかとなった主人公が、疎遠となっていた娘との関係を修復しようとする姿を描く。
主人公となる重度の肥満症の大学教師チャーリーをフレイザー、娘エリーをセイディー・シンクが演じているほか、チャーリーの親友で看護師のリズをホン・チャウ、チャーリーの元妻をサマンサ・モートン、チャーリー家を訪れる宣教師をタイ・シンプキンスが演じており、登場人物は、ほぼこの五人のみ。
物語は、歩行器なしでは動くこともままならないチャーリーが自分の死期を悟り、エリーとの絆を取り戻そうと奮闘する姿が描かれるが、舞台劇が原作となっていることもあり、ほぼチャーリーの家の中のみを舞台としたワンシチュエーションの会話劇として進行。
冒頭、チャーリーがリモートで講義を行うパソコンのディスプレイのシーンでスタートするが、そのチャーリーのウィンドウがズームインしていき、その4:3のアスペクト比のまま展開していくため、何だか窓から覗き見しているような感覚に陥るとともに、体重272キロのチャーリーの体が、常に目一杯に広がることに。
そして、死期を悟ったチャーリーの行動は、彼なりの終活と言えるものであり、お世辞にも、ここに至るまでに彼が取ってきた行動は褒められるものばかりではないのだが、人生の終末を迎えるにあたり、きちんとしておこうとする姿は、それはそれで、人間の本能なのではないかと考えさせてくれるもの。
また、娘エリーも、小さい頃に捨てられたという思いと、父親と心通わせたいという思いが同居しており、そんな不器用かつ揺れ動く姿をシンクが好演している。
その設定だけで、ラストまである程度想像できてしまうような内容であるし、あっと驚くようなエンタメ性も低いものの、スタンダードサイズの中に映し出される生活感溢れるチャーリーの家には、彼が確かに生きた証があり、一人の人間の生き様が人間らしく切り取られているとともに、観終わった直後よりも、何故だか数日経った今の方が、本作品を思い出すことが多い良作。

僕にだけ怒れ。
ぶみ

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