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ザ・ホエールのmitzのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.5
人生の喪失感から部屋に引きこもり、過食を続け重度の肥満を煩った中年男性チャーリー。4:3の狭い画角を駆使し、チャーリーの息づかいを感じるほどの距離感で精神的に閉じこもってしまった男が人生の最期に殻から抜け出そうと藻掻くヒューマンドラマです。
登場人物は主に4人。また場面転換もなくチャーリーの部屋の中で起きる密室劇です。(ある場面を除いて)物語は回想シーンのない現在軸で進行し、登場人物の会話を頼りにストーリーの全貌が見えてくる舞台劇独特の演出が踏襲されています。亡くしたパートナーの部屋に入り、呼吸だけで表現される深い愛情など、行間のある美しい演出が多く観られます。
巨漢のチャーリーを演じるブレンダー・フレイザーはもちろん、複雑な家庭環境で育ったステレオタイプの刹那的且つ反抗的なティーンをセイディー・シンクが好演しています。
家族愛を本筋としながら信仰や同性愛、そして贖罪と救済を題材とし(タイトルでもある)小説「白鯨」の引用を交えながら、多くの要素を盛りに盛り込み死生観のカタルシスのようなラストシーンまで「諸行無常」の一気通貫です。

[A24制作×ダーレン・アロノフスキー監督]の期待を大きく超える傑作です。
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