Punisher田中

ザ・ホエールのPunisher田中のレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.2
ある過去のトラウマによって重度の過食症となってしまったチャーリーは、知り合い看護師のリズから介助してもらわないとまともな生活ができないほど衰弱していた。
そして、リズから死に近いことを宣告されるチャーリー。
彼は、目を背けてきたこれまでの過去を清算するために向き合う決意をする。

大袈裟だからこそ響くラストに唸ってしまう、ダーレン・アロノフスキー渾身の一作。
以前制作された映画版「白鯨」の様なカメラワークで主人公・チャーリーの""白鯨""の様な巨体がその姿を表す序盤だが、大したセリフを語らずとも説得力のあるショットと奇異な造形で一気に心を鷲掴みにされた。
死を目前に控えたチャーリーが、残される人、直面している問題や葛藤にようやく目を向けて真摯に向き合うヒューマンドラマの今作。
モビィ・ディックの「白鯨」をキーにストーリーが展開されていくため、事前に読んでいくと理解が深まるかも。
ほぼ、チャーリーの住むアパートの1室でのみストーリーが進行するワンシチュエーションものだが、このアパートの1室が毎回毎回やけに新鮮で全くワンシチュエーションであることを感じさせない広い世界に感じられ、撮影の凄みをわからせられる。
謂わばアパートのこの1室こそがチャーリーにとっての世界であり、白鯨の泳ぐ大海なのだ。
終始陰鬱な展開が続いていく中でラストへ近づくにつれてシーンの一つ一つが輝きを放っていき、その輝きが最高潮となる寓話的なラストはより一層輝く。
善性でいうと良い話でもなければ、決して良いキャラクターなども1人もいないが、その寓話的なラストが今作を輝かしい物にしている。

今はただ、彼が映画界に再び戻って来てくれたことを心から喜ぼう。