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ザ・ホエールのstaysweetのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
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凄かった。
中途半端なあらすじや煽りコピーからこれが伝わるわけがない、ただアロノフスキーを信じて観るのが正解。

重苦しさはあるけど陰鬱にならず、みんな辛い過去はあるけど絶望はなく。それは悪人がいないことと、世の中には素晴らしいものがあると心底信じられている主人公(作中で楽観主義者と言われる)に拠るものである。ブラック・スワンは事件性があるサスペンスなのでビリビリする危機感があったが、こちらではそれとは違う何かがヒリヒリする。

片親の子供、浮気された妻、恋人を亡くしたゲイなどの「記号」から連想してしまう(ドラマに見られるような)陳腐な要素が全然なくて、「キャラが立ってる」とかじゃなくて、それぞれの人生を生きて、もがいている。うまくいかなかったりいがみあったりもするけど、優しさゆえのすれ違いがあったりしたことが描かれる。やさしい。ギスギスした要素たくさんあるけど、悪い人ひとりも出てこない。病気や罪や恨みはあるけど、そこじゃなくてみんな大元の人間を見ている(若いのふたりはまだ不安定だけど)

下手に個々の問題を「愛に飢えていたゆえの反発」などとまとめたりせずに描ききってる。それぞれのどうしようもないわだかまりや執着を白鯨になぞらえているのだろうか。
正直、ハッキリしたオチをつける作品ではない(ちゃんと終わったとは感じてる)。そういう文学もあるけど、映像化するとイマイチだったりする。この脚本が書かれて、これを理解して演じて、映画として見事に結実したことが本当にすごい。
特殊メイクがどうとかじゃなくてブレンダン・フレイザーはすごかった。娘もとてもよかった。
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