真田ピロシキ

ザ・ホエールの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.0
まず言い訳すると眠気を抱えて見に行ってたので最初の1時間くらいは意識が飛びがちで把握してない点があるかもしれない。こういうのがあるから映画館で映画なんか見るもんじゃない。

ダーレン・アロノフスキーの映画なので当然重っ苦しいに決まってる。妻子を捨てて結ばれた同姓の恋人と死に別れて以来、精神的ショックで300キロ近い極度の肥満体となり死を目前にしてるチャーリー(ブレンダン・フレイザー)が10年会ってなかった娘エリー(セイディー・シンク)と交流を取り戻そうとする。知ってるよこういう展開。『レスラー』でもやってた。ただ『レスラー』は自業自得でぶち壊すとは言え一時的には良好な関係を築けていたのに対して、こっちのエリーには親愛さなど欠片もない。エリーは母親からも邪悪な子と言われるほど心が荒みきっていて、チャーリーのみならず終末論カルトの宣教師(タイ・シンプキンス)にも本気とも冗談とも取れない悪質な態度を取り続けていて、そんな娘をチャーリーは愛しているのは伝わるのだが、そのために元妻や亡き恋人の妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)ですら傷つけている。特にリズは命を絶つしかなかった兄アランを救ってくれたチャーリーには莫大な恩義を感じている唯一の味方と言って良い人なのに、大事なことを話しすらしない。これは全ての人に見限られ孤独な最期を迎えるのかと思った。

それが意外にも最後は心が通じて天に召される荘厳なエンド。演出と演技のたまものかこれには心が動かされる。しかし冷静に考えるとどうだろう。最後の最後になってこんな重すぎる別れを押し付けられるのは幸せなのか?憎んでいられた方がまだマシでは。遅いんだよ。愛してるならまだちゃんと生きてる時に言え。しかも愛の深さを表すのがエリーが書いたエッセイを何度も読んで暗記し心の支えにしてたからというのもうーん。この辺も眠気があったせいで読めてない点があるかもしれない。カルト宣教師やピザ宅配人が示した「おぞましい」という反応はチャーリーの外見ではなく、家族愛の名目の下に結構自分勝手さを覗かせる内面に実は向けられているのではと感じられた。オンライン講座で姿を晒してその後PCをぶち壊したのは完全に己を顧みたと映る。自分としては『ブレイキングバッド』のウォルター・ホワイトに近いものを覚える人物。本当にこれは宣伝で言ってるような無償の愛を描いたヒューマンドラマなのかな?そうは言っても吐き気を催すほどにグロテスクな虐待毒親感動ポルノ『湯を沸かすほどの熱い愛』と違って主人公に批判的な視点が感じられるので不快感はない。チャーリーのパートナーを侮辱するかのような言葉を述べた終末論カルトの同性愛嫌悪が作中で共和党代表選動向を流してたことを踏まえるととても意識的で昨今のアメリカを踏まえると言うか、日本も統一教会があるから全く他人事ではないむしろこっちがヤバいんじゃないかと思わされた。ただそんな風に宗教を不要と描きながら神々しく天に召されるラストなのはよく分からないまま。インチキカルトじゃなければ良いのだろうか。理解不足。やはり眠気をやや覚えてた時点で観に行くのをやめとけばよかった。