サマータイムブルース

ザ・ホエールのサマータイムブルースのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.9
A24制作、ダーレン・アロノフスキー監督作品
この人も、代表的な鬱映画監督でしょう
作品的には同監督の、「レスラー」に似ているのかなと思いました
あちらはミッキー・ロークさん、こちらはブレンダン・フレイザーさん、どちらも下降気味の俳優さんを実生活とダブらせて、うまく蘇らせたなという印象です
2人とも見事な演技だったと思います

主要登場人物はほぼ5人、舞台もチャーリー(ブレンダン・フレイザーさん)のアパートの室内のみで繰り広げられるワンシチュエーションとなっております
5人が5人とも心に傷を負っており、本音で語り合うシーンは心に響きました
低予算でもこれだけ重厚な人間ドラマが作れるのだと感心しました

チャーリーは体重272キロ、鬱血性心不全でステージ3と診断され、死に直面しています
(ちなみに元大関小錦の体重は全盛期で275キロ!!お相撲さんスゲー!!)

前にテレビのバラエティーで極端に太った人がベッドから降りられず、ドアを壊して病院に連れて行き脂肪吸引手術とダイエットさせて、こんなん痩せました!!って番組見たことあるけど、そんな感じです

チャーリーには妻と娘がいましたが、娘が8歳の時に同性の恋人、アランと駆け落ちして、家族を捨てて家を出て行ってしまいます
その後、アランは死亡し、恋人を失ったショックから暴飲暴食に走り、今の状態に至ります

チャーリーは妻と娘に負い目を感じていて、娘に全財産12万ドルを譲る気でいます
それを知った訪問介護士のリズは激怒します
リズは動けなくなったチャーリーに心から尽くしてきた人物です
チャーリーはお金がないから、健康保険証もなく治療が出来ないとリズに説明してきたのです
そのお金があれば、入院して、高度な治療を受けることも出来たのにと

私もそこは不思議に感じました
チャーリーはまだ40代、まともな仕事もあるし、そのお金で、治療に専念して、また働いてお金を貯めて、エリーがもっと大人になってから、より多くの財産を譲れば良いのでは!?
なぜチャーリーは後ろ向きなのだろう?
まだ17歳の少女に大金を渡したとして、母親が管理するのかもしれないけど、本人に渡ったら、遊びやドラッグで使い果たしてしまう恐れもある

病気が悪化しても、チャーリーが暴飲暴食を繰り返すシーンは見ていて痛々しく、死に急いでいるように見えました
喪失感なのか、罪悪感なのか、自己嫌悪なのか、完全にセルフネグレクト状態です

そもそもチャーリーのアパートには、訪問介護士や、元妻、娘、ニューライフ協会の宣教師、ピザの配達人と、引っ切りなしに、人が訪れます
世の中には孤独死して、死んだ後も誰にも知られずに朽ち果てて行くような人間がたくさんいます
それに比べれば、チャーリーは恵まれていると思うのですが・・・

「ザ・ホエール」というタイトルは、かつて娘がハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」の論文を書いたことに由来しており、チャーリーの巨体と掛け合わせたものと思われます

クララが立った!!
彼は救われたのだろうか・・・