レオン

ザ・ホエールのレオンのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0
見逃し高評価作・アカデミー男優賞 (★平均3.9 UNEXTポイント課金) A24作品で何度も目を潤ませられるとは。 久々に主人公に感情移入出来、心の針が振れた・・。

今作は冒頭、訪問者が道を歩くシーン以外は全て、主人公の家でのシーン。(ドア外の廊下を含む) 室内劇だが、それ感じさせない。
かといって主人公の "醜い体" 以外は特別変わった物も描写されていない。
なのに2時間をずっと引き込む。

それは、わずかな物語の進展以上に、登場人物の心の動きをずっと魅せているから。
主人公チャーリーは、過去を悔いているのか・・自身に絶望しているのか・・ 今の彼を支えている唯一の物は何なのか・・。

そして彼を度々訪問し支えるリズは、どうしてこれほど親身になって彼をケアするのか・・。
彼の娘はどうしてあれほど傲慢な態度で相手を見下し、父にさえ「 You're disgusting! 」と言えるのか・・。
(字幕は ”おぞましい” と見た目にも含みを持たせているが、本来は、あんた最低! おまえはむかつく! という様な言葉)

等々、常に登場人物の心の動きを、見る物に想像させている。

さらには、PC画面の文字を追わせたり、一部屋だけ綺麗に整った部屋を描写したり、「白鯨」の一節はなにを意味するか、そしてTVではアメリカ共和党の支持率情報が流れている(共和党=トランプさん側は福音派信者も多く、聖書を重んじる方が多い)等、見る物の脳を適度に動かす機会を与え続けている。

私は今作が男優賞と共に、「脚本賞」も受賞すべきぐらいに感じた。
この年、脚本賞ノミネートは「イニシェリン島の精霊」
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」「フェイブルマンズ」「TAR/ター」「逆転のトライアングル」,で「逆転・・」以外は全て視聴したが、今作の脚本が一番秀逸に感じ、強く引き込まれた。
ノミネートさえされなかったのは、おかしいと感じる。

キャスティンも素晴らしく、少ない登場人物だが、全ての役がドンズバ人選で、抜群の表現力を発揮して、誰も役を演じている様には微塵も感じさせない。

特殊メイクの上からでも繊細に表現した、ブレンダンはもちろん、リズ役のホン・チャウも、まるで肉親と接するような親身な演技に何度も目に留まった。
「SHE SAID」で私が称賛した、母親役サマンサ・モートンも少ない出演時間で十分な存在感を発揮している。


↓ネタバレ含む


今作、一番目頭が熱くなったのは、チャーリーの、
「僕は人生でたった一つ、正しいことをしたと!」の台詞シーン。

もう、チャーリーは自分自身の存在とその命にも未練の欠片もない。
ただ、娘に一財産を残すことが、自身の命より優先事項で、唯一彼が出来ることで、唯一の望みなのだ・・。
その為には、自身の治療費でそれを僅かでも減少する事は許されない・・。

そしてラスト・・。
再びエッセイを読んでくれた娘に、以前出来なかった事を実行する・。
立って・・そして一歩二歩と踏み出す・・。
唯一部屋でないシーン、海辺の回想が脳裏をよぎる。
そして、言葉にならない声と共に、”中に浮く足元”。
それは "絶命" でななく、"天に召された"こと意味する。

端的だが、なんと深い余韻を残すエンディング・・。
倒れ込んでは、悲愁が増すだけだが、あの描写により、
チャーリーは一つの思いを成し遂げた事になる・・。


PS (アカデミー賞授賞式にて)
男優賞で名前を発表された瞬間、ブレンダンは本当に驚いたようで、興奮気味にステージに上がって行った。
そして、目を真っ赤に充血しながら涙を貯め、スランプだった事から本作の依頼が有り難かった事や、共演のホン・チャウの素晴らしさに助けられた事等を語っていた。
(彼の姿はハムナプトラ出演時の"華"はなかったが、その大きな目で飾らぬ言葉に、"正直な人"という印象で、だから ホエールを見事に演じられたのかと・・。)
レオン

レオン