いりぽん

ザ・ホエールのいりぽんのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.1
死期を悟った人間が足掻く様を映す映像としては極めて重く暗い内容だった。ジメっとした室内+雨の天気がその様子をますますその解像度を高いものにしている。
複雑すぎる内容の中で思ったこととしては、登場人物たちの人間関係の構図がとにかく歪。

奇しくも部屋の中でほぼ動けないチャーリーが鎮座してるからこそ物理的な位置関係や
挙動で精神模様の対比が取れやすいのは
良い演出だと思った。娘が一切チャーリーに寄りつかず不自然のない範囲で最も遠くの間合いに居ながら対話してるのは印象に残った。

そういうのを踏まえて感じたのは、
全員難アリってこと。

理解者っぽいリズでさえも自己的な欲求をチャーリーに向けて処理してるだけのように見える。アニキ死んでるし仕方ないけど。



黒澤明の「生きる」とかみたいに何か大事を成し遂げるわけでもなく、
ただ自由に、そして幸せに生きろとだけ
娘にメッセージを残す。
Z世代特有の毒々しさを持つ、もはや救いようのないとも言える娘にそんな精神論だけをあえて残すことで、神も仏もない人生を生きる術を授けたのかなと思う。
そんな世の中を写し鏡にしていたのは、実はダンとトーマスだろうかなと思う。
地味に見えて意外とキーパーソンだったのかな。

家族サービスだとか、隣人・友人を慮るとか、社会性だとか、もうそんなん気にせずただあるがままに...。
悪い意味でカオスに満ち満ちた今の世を生きるにはもはやこういう形而上の発想こそが必要なのかもしれない。
いりぽん

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