ネノメタル

ビリーバーズのネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

ビリーバーズ(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます


城定秀夫監督、四年間にわたる構想の果ての景色、『ビリーバーズ』
久しぶりのシネ・リーブル神戸 にて鑑賞。

1.“センセーショナル”を超えて(^_^)
本作を彩るものは
「カルト」「宗教」「洗脳」「解脱」「煩悩」「食欲」「性欲」「性衝動」「嫉妬」「軋轢」「暴力」「殺害」
ーなどなど本編を覆い尽くす要素は悉く生々しくドロドロしそうなものばかりである。
にも関わらずである。なんなんだこの鑑賞後のこのなんとも言えぬセンチメンタリズムとある種のスカッとした高揚感で胸が一杯になってエンドロールを迎えてしまうこのcontradiction(矛盾)よ。

この感触は紛れもなく城定秀夫監督作品のあの空気感に他ならない。
2020年、一昨年の夏を思い出す。
同監督の(全く趣きが異なるように思える青春高校野球群像劇)「アルプススタンドのはしの方」を鑑賞後のエンドロールを迎えたときのあのセンチメンタル込みのスカッとした感覚と全く同じだったからである。
カルト宗教を土台にしようが、過激な濡れ場がトドメのように多発しようが、応援する対象が甲子園という舞台で直向きに頑張る球児ではなく、「修行」と称して全裸フェラチオに耐え抜く信者仲間に対しての声援であったりとその趣きは大きく異なるものの、エンターテイメントとして物語がしっかり成立している感じは城定監督のCore(核)なのかもしれないなとも思ったりして。


2.マスターピース論(^_^)(^_^)
「傑作」の定義として常々時代を投影する鑑となるものだと思っている。
具体例を挙げよう。
あの2018年、是枝監督の『万引き家族』が公開する直前ぐらいに物語の設定と全く同い年の女の子の虐待事件が起こったのは少なからず世間にインパクトを与えたし、更に岩井俊二監督『ラストレター』にまるでコロナ禍を予見していたかのように疫病を患った女の子がマスクを取って初めてその子の素顔を知って一目惚れする、みたいなシーンがあったでは無いか。あれはまだ今考えるとコロナのコの字もなかった2019年の出来事である事にも驚きを隠せない。

そして、本レビューのテーマとなっている『ビリーバーズ』もその例外ではない。
詳細は避けるが、ここ最近あるカルト宗教の洗脳問題が取り沙汰されているが、そこに照準を合わせるかのようなこの公開のタイミングに前述した作品群同様の時代とのシンクロぶりに偶発的事象以前にカルマめいたものを感じざるを得ない。
ストーリーの内容はほぼほぼ原作通りで3人のあるカルト宗教に完全に頭がやられた議長・副議長・オペレーターなどと本名ではなくホーリーネーム的な(?)分担名で呼称し合う3人の男女(磯村勇斗、北村優衣、宇野祥平)が世俗から断ち切られた禁欲生活を余儀なくされる無人島での修行生活をする最中、日々の“成果”を報告し合う中で、ふと外れてしまったタガがキッカケでそこから堰を切ったように3人の人間関係に歪みが生まれ、我慢の極限にまで達していたフラストレーションが爆発して破滅の末の崩壊の過程へと導かれていく様がこれでもかと容赦なく描かれている。


3.映画作品としてのリアリティ(^_^)(^_^)(^_^)

にしても、である。3人のメインキャストの演技が凄すぎて本当に彼らは洗脳されてるんじゃないかと思ったほどである。よく体を張った演技とか迫真の演技力とか言われるが多分彼らは撮影していく中で原作漫画の登場人物が取り憑いてしまっていたのだと思う。
ほんとに3人ともメイキングや舞台挨拶やインタビューの写真を見ても表情や仕草がまるで違うもの。
特に、メインキャスト中唯一の女性信者である副議長役ってか、ヒロイン役を演じた北村優衣氏の役者根性ってか身体を張った迫真の演技には圧倒されたものだ。
彼女のどこか宗教に簡単に洗脳されやすいナイーブさや緩さを持ち合わせといて「全部、脱いじゃいました^_^」みたいな天真爛漫さも共存する役柄ってもうこの人しかいないんじゃないかってくらい適役である。
あともう言えばキリがないが宇野祥平氏の演技なども唾液が髭にかかるあの感じからもうリアル過ぎて迫真すぎてヤバすぎるし、主人公の磯村勇斗の欲望が堰を切ったように大爆発するまでのあの表情のリアルな事も限りなし。
このメインキャスト皆どこか感情移入ポイントを持ち合わせていて魅力的なんだな。

多分彼らは今後はこれを機にメジャーストリームに躍り出る存在となるだろう。

そういえば本作を鑑賞した今、ふと思い出す作品がある。

行定勲監督による岡崎京子氏の漫画を実写映画化した2018年の傑作『リバーズ・エッジ』である。
どちらも90sから語り継がれている漫画実写という高いハードルを超えて生まれたものだが、前者はあの淀み切った川、草陰の宝物のあのグロさ、若草さんのしかめ泣きっ面、吉川さんの名セリフのザマアミロ感、山田くんの相手する親父の腹のでっぷり具合からあのエロもこのグロも、まさに考古学者が埋葬されたミイラを発掘して分析するかの如く細部に至るまで忠実に再現されていた。
それに対し『ビリーバーズ』にはそのような原作完全再現作にとどまらず監督の原作への思い入れや拘りが色濃く感じられたように感じた。
 
あ、そうそう最後に劇伴について触れよう。邦画にしては珍しく(?)不穏な音像で信者たちの心の揺れを描いたり、時に駆り立てたり、にも関わらず映画本編の画を邪魔しない絶妙な劇伴がひたすらカッコ良い。と言うのも以前からの城定秀夫監督のファンでもあると言う音楽家、曽我部恵一氏が担当しているから。もちろんエンドロールの主題歌『ぼくらの歌』も担当していて、これが彼の持ち味である爽やかな側面とは違ったまたザラついた感じのボーカリゼーションを披露している。本編でも盛んに繰り返されるニコニコセンター会歌「みんなの歌」のフレーズが何気なく入れてる所などキメが細かくて流石。

 まとめると、とかくカルト宗教だ、洗脳だ、濡れ場だのセンセーショナルな側面が取り上げられがちだな本作だけど、【原作愛と映画作品としてのリアリティとプライドを突き詰めた令和四年の夏を象徴する傑作】だと断言して本レビューを締めくくりたい。
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