明石です

ビリーバーズの明石ですのレビュー・感想・評価

ビリーバーズ(2022年製作の映画)
4.7
宗教団体「ニコニコ支援センター」の信者三人が無人島で共同生活をする。ジャケットの雰囲気と相容れない"エログロサスペンス"との謳い文句に惹かれ、あとシンプルに宗教モノへの興味から鑑賞。かなりの良作でした。

「浄化」「魂の結合」「出発」とか、「自分に敗北した」「みんなのために頑張りましょう」とか、それだけならどうとでもとれる曖昧な言葉でカムフラージュし残酷な行いを正当化する感じがカルトっぽさを的確に突いていて好き。

役者さんの演技にも脱帽で、特に宇野祥平。「性的快楽を理性によって否定することが完全な人間となる第一歩なのです!」とか何とか、口の端に唾を垂らしながら支離滅裂な文句を口走る凄まじい演技に魅せられる。「淫夢を見てしまったのは副議長さんのせいです!私を縛り付け、夢でしたのと同じように陰茎をしゃぶり、私の射精とともに噛みちぎってください!」とか叫んでいても全然違和感がない笑。言ってることは意味不明なのに、この人間の口から聞かされれば意味不明なことでなければ辻褄が合わないと思わせる凄みがある。白石ホラーの常連俳優さんとしてひそかに好きになって以来、個人的に、この人の演技にがっかりさせられたことは一度もない。

カメラワークも良い。若い信者が、仲間の打ち明け話を聞いて「裏切り者だ!」と(いう趣旨の台詞を)叫ぶシーンの、手動でゴリっとズームがかかる演出。ゾッとしたなあ。単純なクロースアップだとここまで怖くはなかったと思うと、この撮り方をあえて選んだ作り手に敬意を感じる。実際、終盤に類似のシーンがクロースアップで撮られているものの、前者のあの迫力は感じられなかった。アナログなズームが、その質感まで含めて共有されてる分、役者の覇気を、まるでスクリーンなど挟んでいないかのようにリアルに感じられるのだなと実感。手動のズームという、カメラの存在をむしろ感じさせるショットを選んでいながら、カメラの存在を忘れられるって凄いことですね。そして、私はどこまでいっても恐怖描写が好きなんだなと思った。こういう手の込んだやつには本当に目がないのです。

それから、先のフェラチオ(+噛み切る)シーンで謎にデ·パルマ意識の360度回転カメラが駆使されたりと、ホラー映画への好きが溢れている。終盤に挿入される、教団の教えを受けて頭がおかしくなった信者が、ビルの屋上から硫酸をビンから直でばら撒くシーンもかなり怖い。前半の1時間半、青空とセックスと多少の暴力からなるどちらかというと平和な場所だった島が、教団の集団◯◯の舞台になる展開も良い。超展開であることも含めて好き。強いて言うなら、若干尺が長い。こういう単体のアイデアから出発した(と思える)作品は、90分前後でまとまっててほしいかなあ。あと、致命的なのは、終盤に島へ乗り込んでくる「教祖様」にまったく魅力がないこと笑。宗教を扱った作品では、教祖様の重要性は(現実世界でそうなのと同じに)軽視してはいけないと思う。

全編通して、ストーリーにもカメラワークにも大胆な試みがされていて滅茶苦茶好き寄りな作品でした。ツッコミどころは探せばいくらでも出てくるけど、それも含めて「荒削りな魅力」とまとめられるくらいには魅力に溢れた一作だと思う。宗教ってこんなに面白くて、それも少し前(90年代)にはあんなに流行したのに、なぜ映画ではもっと大手を振るって描かれないんだろう。オウムが社会にもたらした悪影響のおかげで安易に宗教を扱っちゃいけないみたいな空気ができているのだとしたら、本当にしょうもないことだと思う。倫理道徳に逃げて、現実に目を背けるのは芸術にはあるまじき態度だと思う。
明石です

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