るるびっち

ハッチング―孵化―のるるびっちのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
3.3
卵で生まれる爬虫類は、親の影響が少なそうだ。
個体として独立している。
哺乳類は、そもそも授乳なしでは生きていけない。親から引き離された子猿の実験では、うつ病まで発症する。
鳥はどうか。
最初に見たものを親と思う「刷り込み」がある。
卵で生まれるが爬虫類ほどクールではなく、哺乳類ほどには親の影響を受けない。
人間は親の影響を受けすぎる。
メンヘラの原因は、殆どが親との関係だろう。

IKEAぽい家具に囲まれたSNS狂の母親。他人にどう見られるかが、最大の関心事だ。
そこで育てられた娘ティンヤは、本音を封じられている。
完璧に美しくなければならず、醜い感情は封印している。
ある日拾った卵は、彼女のストレスやイケない感情が貯まる度に成長する。カルシウムではなく、心の闇で殻が大きくなるのだ。
大きくなるに連れ、何が出るかな〜何が出るかな〜と期待値は上がった。意外と早く出て、何だ『US』かとガッカリ。

卵から生まれた怪物は、ティンヤの望まぬことをして困らせる。
実は彼女の抑圧された感情や願望を嗅ぎ取った行いであり、潜在意識でティンヤが望んだことなのだ。
彼女が怯えるのは怪物が悪さするからではなく、自分の醜い本性を見せつけられるからだ。何しろ完璧で美しくなくてはいけないのだから。
しかし、それだけではありがちな気がする。
愛情と憎悪の物語としては薄い。

母親に愛されたい娘は、必死に母に気に入られようとする。
それを卵の親として、ティンヤと怪物の間でも行えばよい。
刷り込みによりティンヤを親と認識している怪物は、愛される為に少女の望む残酷なことをする。
だが内心の醜さを指摘されたように思うティンヤは、その行為を褒めない。むしろ厳しく叱る。
怪物は愛されたくて、益々少女の内心の邪悪を嗅ぎ取って蛮行を行う。
すると益々少女は、怪物に冷たくなる。
ツンデレツンデレ。
毒親に尽くして尽くして、愛してもらいたくて、やればやるほど叱られる。酷い虐待を、怪物に行う可憐な少女。怪物は親である少女には、その力を振るわない。

最後を見ると、母親には初めての経験ではなかったようにも感じる。
ならば実はティンヤも謎の卵から育った怪物であり、自分の正体が人間ではないと気付いた少女が、積もり積もった愛情の裏返しで母への憎悪を爆発させる。
本当の怪物は少女の方・・・という終わり方でも良かったな。
思春期の少女の闇だけでなく、支配母との愛情と憎悪をもっと深堀りできた気がする。

オキシトシンという愛情ホルモンは、哺乳類が顕著だ。
鳥類や爬虫類にも似たものはあるが、オキシトシンほど強くない。
強い愛情は、裏返ると強い憎悪になる。
爬虫類なら起こらない悲劇。
それも人間が一番やっかいだ。
愛に飢えてる奴が多すぎるのだから。
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