よしまる

ハッチング―孵化―のよしまるのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
3.9
 久しぶりの北欧シネマ。フィンランドの光と闇を堪能できる佳作で、何粒も美味しい(注:ハマらない人にはどれもが不味い)ステキな映画だった。

 仕事柄、当然気になるインテリアは北欧らしさというよりはヨーロッパに影響された、とある奥様の趣味全開のしつらえ。
 もちろん悪いはずはなく、壁紙やモールディング、照明からファブリックに至るまで、雑誌から抜け出たような生活感のないリビング。あれ、disってる?笑

 いっぽう子供部屋はカラフルな壁紙に彩られてステキ。家具や照明も巧みにコーデされて、お母さんやはり只者じゃないと思わせる。

 SNSに明け暮れて映えてバズるためだけの毎日を過ごす母親。そんな外向けの生き方ている人には案の定、不倫相手がいる。
 持論だけれど、SNSって自分だけの世界に閉じこもるのではなく外の世界に広く知って欲しくてやってるように見せかけて、実は特定の誰かに送っているような気がするんだよなー。逆に、完全に不特定多数の、誰でもない誰かのためにそんなに必死になれるものかいなと思う笑

 なので、案の定と書いてみたのだけれど、この母親は夫より我が子より愛人ファーストで生きている。不倫は全て悪とまで言わなくても、ここまで行くと完全にアウト。
 そして夫も娘もすべて理解しているところがこの家族の怖さであり、この映画をホラーたらしめている理由となる。

 少女の拾ってきた卵。孵化した生物との触れ合いがいつしか…シュールなコメディでもあり、ソフィスティケイトされたホラーでもあるという、絶妙なバランスが面白い。
 ぶっちゃけ結構始めの方で「体操競技=鳥のように軽やかに舞う」みたいな野暮な想像もしてしまうわけだけれど、そんなベタな展開には持っていかないところがナイス。
 視覚的なホラー要素をベーシックに見せつつ、あくまでも母親や愛人、父親、弟、友人、さらには自分(娘)をも含めたヒトの内面に潜むホラーを主題に置いている。
 クリーチャーが主役なのではなく、それが炙り出す人間の心の闇を見るのがおもしろいのだ。
 その先をいろいろと想像させる、軽やかな着地もお見事。