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ハッチング―孵化―のotomisanのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
3.1
 世界一幸せなフィンランドのママは最高の家族と一緒にこんなに輝いてます。なんて調子でネットに配信しているが、実際にママを幸せにしてくれるのは目指せチャンピオン、体操美少女のティンヤだけ。弟のほうはまだ犬っころ同然、おやじは昔テスラ株を拾ったか、バフェットのパンクの修理でも手伝ったかなんかなんだろう。しっかりしないといつか首をひねられるぞ。
 まさにその通り、ある日家族のもとに闖入したカラスの首をあっさり捻るママに体感温度6度も下がって、さらにその夜中、ティンヤのダメ押し殺害、彼女は血に飢えておる、を目にすれば低体温で即死だ。十分よく似た母と娘だが、似た者娘は母が嫌いだ。利用価値最高な娘であるうちは大事な大事なティンヤでいられるだろうが、このままではいつかきっと私の首も捻るだろう、と思ったか思わなかったか?

 体操の成果が今一つ越えられない様子のティンヤが殺したカラスから引き取った?奪った?托卵された?卵からはどんなフェロモンが発していたのだろう。そもそも、鉄線ハンガーを使わず地べたに巣を作るカラスは新種に違いない。首をひねられても死なないなら更なる大発見で、公表すれば「いいね」付きまくりだろうにティンヤはフェロモン酔いでママへの貢献も気が付かぬらしい。卵フェロモンで「私の子」を隠し守るティンヤが不気味度を高めカラス張りのモビング、血に飢えた怪物化するのを楽しみにするとフィンランドを舐めるなよと打っ棄られる。

 さすがのデザイン大国である。そんな下品な話は受け付けない。だからカワイイ鴉の子で孵化した我が子もやがてきれいなティンヤそっくりに再デザインされてゆく。
 殺す相手だって隣のイヌからママのおトモダチの赤子にグレードアップするというのに、なぜか、それにリモート待ったをかけるティンヤの人となりが徐々に「血に飢えた」から「そうゆうのもう嫌なの」へとあいまいさを増し、まるでこんな子育てはもう嫌だと言いたげだ。こうしたティンヤの心模様を強く明示し丁寧に扱えば物語の陰影も深く味わいも濃厚になっただろう。

 血に飢えたこころを鴉の子に預けた格好のティンヤが却ってこころの闇から解放されたような塩梅なんだろう。ところが、勝手を始める我が子の凶暴さ、ついに、不満と怒りの本来の矛先、ママが標的となってジレンマが頂点に達する。
 ママを取るか我が子を取るかの二択に迫られ、第三の道を選ぶティンヤが我知らず自分を投げ出すのがいい。しかし、監督が忘れないのが、「血に飢えた」ティンヤである。愛憎半ばする一家に突き付けた血讐の思いが我が子に受け継がれてあとは言うまでもなし。よいホラーは品よく切り上げるのがグッド・デザインだ。
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