幽斎

デッド・オア・アライブ DEAD OR ALIVEの幽斎のレビュー・感想・評価

3.8
邦題「DEAD OR ALIVE」と言えば、コーエーの対戦型格闘ゲーム。ニューロマンティックのイギリスのバンド。三池崇史監督のヤクザ映画。洋題にしてもニアリーなタイトルが多過ぎ。販売元のアメイジングD.C.は虚偽広告で有名だが、この作品に対する思い入れは、洪の霞の程だが、其処まで悪い作品では無い。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

Manuel Urbaneck監督はアメリカでは全く無名だが、ソレもその筈で本作では主演も務めるが、元に成った短編「LIVE OR LET DIE」国際コンペで評価され、本国ドイツのスポンサー支援を受けた、初の長編映画。ドイツ映画とゾンビと言えば意外なアンサンブルにも見えるが、ホラーの歴史に詳しい方ならドイツが発祥の地、と言うのは先刻ご承知だろう。円盤はドイツ語、英語、日本語が選択できるらしいが、此処はドイツ語一択で。

クラッシックの名作「吸血鬼ノスフェラトゥ」ドイツ表現主義の原点。最初期の吸血鬼映画で、1922年製作と言うから驚きしかない。Nosferatuはドイツ語だが、今では吸血鬼をノスフェラトゥは一般語で通用する。更に遡れば「カリガリ博士」1919年製作は私の専門スリラーの元祖と言って良い。そのシュルレアリスムなスタンスは、私の師匠であるAlfred Hitchcock監督が、表現の手法を手本にしたと伝わる。

ドイツでホラーと言えば陰惨で血糊タップリを想像するが、本作は真逆を行くインディーズ超低予算映画。登場人物は髭モジャのオジサン2人のバディ・ロードムービー。レビューしてないけど、同じドイツ映画(+アメリカ)「アルマゲドン・サーガ」アルマゲドンのパチモンで、ポストアポカリプスを描いたオムニバスと雰囲気が、ヤッパリ良く似てる。それはドイツのお国柄と言うか、過去の歴史から続く「閉塞感」を滲ませる。

ドイツは日本と同じく枢軸国として戦い、戦争に敗れた。周辺国の国民を殺した事実は永遠に消えないし、それは今現在も重い罪として背負い続けてる。日本の様に原爆を落とされ、どっちもどっちでは無いドイツは、今ではEUのATMとして各国から集られてる。国内の重苦しい雰囲気は映画にも投影され、国民は酒に溺れ本編でも「希望なき未来に乾杯」と出口の無いムードに支配される。最近のヒャッハーなゾンビ映画とは趣を異にする、淡々とした語り口は見る人を選ぶ事は間違いない。

ドイツ映画はフランスの様に芸術ぶるでも無く、イタリアの様にエキセントリックな訳でも無い。が、ゾンビとの格闘シーン、お得意の人体損壊も洩れなくインサート。監督のグロが無くても此処までヤレると言う意気込みを感じるが、単に超低予算でVFXに回す予算など有る訳無いが、ゾンビ映画の味変としては悪く無い。勿論、ドイツなので長っ~いソーセージも出てくる(笑)。真綿で首を締める希望の無さも感じるが、当然だがドイツ映画なのでハッピーエンドで終わる訳ない。この世界観、私は嫌いでは無い。

ペシミスティックなゾンビ映画。現実なんてこんなもんだよ、希望なき未来に幸あれ。
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